ナノスパ＠2016 -one's routine life-

発想と解法

「おー、リン君すごーい」

「凄いです雄介さん！」

　ぱちぱちと、２人分の拍手が沸く。久々にブルースプリング名義で曲を書いた。とは言え、大学祭とはまた様式が異なる。現在計画されているのは、春山さんに対するドッキリというヤツだ。

　春山さんに対するドッキリだとか復讐だとか、言い方はいろいろある。だが、年末に春山さんのいない布陣でライブをし、それをネットで生放送して春山さんに見せつけてやるということだけは確定している。

「インスピレーションというのは怖いもので、帰ってすぐでしたよ」

「俺の曲も良かったでしょ？」

「まあ、音楽に関してだけは青山さんをまともだと思っていますし、その辺りは素直に」

　何の縁か、青山さんは演劇部の舞台に音楽監修として参加することがあった。それで演劇部の演者である綾瀬がずるずるとブルースプリングの合わせに来たり、何故か情報センターにも居つくようになった。

　正直どいつもこいつも変人ばかりだが、音楽に関することであったり、綾瀬に関して言えば舞台上ではそれなりに見られるのだから人の顔と言うか面の皮はわからんものだ。

「綾瀬、踊れ」

「えっ、今ですかあ!?　えっ、だって振付とか、他にも」

「いいから踊れ。音を聞いて感じたままにだ。踊り子も出来ると言ったのはお前だろう」

　今回書いた曲は、先日演劇部の舞台を見に行ったときに得たインスピレーションをぶつけて書き上がった。しかし、真の意味での完成に至ったとは思えないのだ。編曲をしていないからか、あるいは。

　演劇部の舞台から得たインスピレーションが腑に落ちていないのなら、それを与えた者から解法をもぎ取るまで。それは、音楽監修の青山さんであったり、主演女優の綾瀬であるべきだ。

　オレの音に合わせて綾瀬がステップを踏む。髪やスカートの裾が揺れ、胸元では首から下げたボタンが踊る。指先は空間に光の線を残すようだ。先日見た舞台とは違う即興だが、それでも綾瀬の立つ場所が舞台になるのだろう。

「俺も、いい？」

「嫌と言っても来るんでしょう」

　青山さんがカホンの音を重ねて来れば、あとはもう行くところまで行くだけだ。

「……はー……これ、二度は出来ないよねえ」

「出来ないでしょうね」

「雄介さん、どうでした？　私の踊り子振り」

「知らん」

「えー!?　そんなー！　何か言ってくださいよー！」

「香菜子ちゃんキレイだったよー」

「青山さんありがとうございますー」

「綾瀬、調子に乗るなよ。今回はお前がどれだけやれるかを測っただけに過ぎん。途中から振りがワンパターンになっていた。即興だから仕方ないなどと言うつもりは毛頭もない。悔しければ、オレに舞曲を書かせるだけの衝撃を与えて見せろ」

　――と、ここまで言ったところで思い出す。綾瀬香菜子という変態の性質を。褒められるだけでは満足できず、次に繋がる改善点や指摘を求める、良く言えばストイックな姿勢。

「他には！　他には何かありませんか！」

「これ以上は知らん」

「そんな～！　振りがワンパターンだって言うならちゃんと考えてきますから曲の解法を、読解の仕方を～！」

「ええい、離れんか！　この曲は先日の舞台から得た衝動のままに書き殴った物だ。解法だ？　読解だ？　フン、知ったことか。与えたお前が返すべきだろう」

「――って、雄介さん、舞台見に来てくれてたんですか…？」

「チッ、口が滑った。SFだと聞いたし青山さんが音楽監修をしたと聞いたから足を運んだだけだ」

　どのシーンから得たインスピレーションで、どのような衝動が、などと綾瀬は終わった舞台の台本を取り出して読み解いている。どんな曲だったか覚えるまでずっと弾いててくださいねと注文まで付けてくれて。

「ったく、非実在先輩とやらは、どうやってこれの相手をしてたんだ」

「この第二ボタンにかけて先輩は実在します！　でも、今の雄介さんもちょっと雰囲気が似てましたよ」

「それがどうした」