出席ギフト法案の妙
俺はこう見えて授業には比較的真面目に出席する方だし、成績もそんなに悪かねえと思う。ただ、ひとつだけ評価が怪しい講義がある。別に担当教授との相性が悪いとか生理的に受け付けねえとかではない。起きられないのだ。
その起きられない講義……つーかゼミは木曜の4限だ。4限が始まるのは14時40分。やがて3時になろうかという時間に始まる講義に寝坊で出れないなどは茶飯事。安部ちゃんだからというワケではない。別の日にある安部ちゃんの授業には全部出ている。
「高崎君、そろそろ出席が危ないねえ」
「マジすか。余裕ないっすか」
「ないね。ちなみにハロウィンボーナスを使っても残り1.5回だね」
「飯野のレポートに付き合ってる分は加味されないすか」
「飯野君のレポートの薄さが薄さだから、加味できて0.5回かなー」
「あの野郎レポートくらい規定の文字数書けよ」
「高崎君も、講義の数だけ出席しようね」
「うっ」
安部ゼミの問題児その1その2の出来なさ加減に安部ちゃんが頭を抱える季節になっていた。レポートは書くが出席をしない俺と、出席は完璧、パーティーの幹事もやるけどレポートがゴミクズの飯野だ。
俺はあの手この手を使って出席数を確保しようと裏工作をするが、去年賄賂を送って今年がこの様。安部ちゃんも去年より厳しくなっている。去年と同じことをやっていたところで出席数の回復は期待できないだろう。
「今年クリパってあるんすか」
「やるつもりだよ」
「出席ボーナスは」
「つけるけど、つけても高崎君は危ないじゃない」
「信頼されてないことだけはよーくわかったっす」
「君が最後に遅刻または欠席しなかったの、いつだか覚えてる?」
それを言われてしまうと辛い。秋学期は確か1回もまともに来れてないような気がする。いや、ハロウィンパーティーの時はちゃんと来た。尤も、出席ボーナスのない日に限定すれば、いつになるかは覚えていない。
「レポートは一番いいのにねえ」
「じゃあ、期末のレポート、飯野にそれっぽいのを書かせたら飯野が余らせてる出席ボーナスで何かならないすか。スマホとかでよくある余ったデータ通信料を分け合う的な感じで」
「そうだねえ、飯野君はそもそも卒業がちょっと危ないからねえ」
俺の周りであと危ないイメージがあるのは宮ちゃんだけど、それでも卒業が危ないというレベルではないらしいから飯野はよっぽどヤバいのだろう。大学側もそんな奴に長居されてもと思うけど、金蔓ではあるのか。
安部ちゃんが言うには、飯野はまずレポートを指導し始めるレベルにも達していないらしい。どんなに下手くそでもいいからまずは文字数揃えて持ってこいと。去年までは出席でカバー出来てたけど今年はそろそろレポートで評価しないと、とのこと。
「ホント何なんすかねアイツのゴミみてえなレポート」
「だから、僕が指導を始められる域まで高崎君が持ってく。それが出席ギフト法案を成立させる条件だね」
「レポートの指導って、具体的にどうすりゃいいんすかね」
「君が書いてる風に教えたらいいんだよ。うどんでも食べに行く? 食べながら話そうよ」
何だかんだ安部ちゃんにいいように使われているような気がしないでもないが、俺も俺で単位を取るために必死なのだ。今年の2年生には3年生みたいな問題児がいなくてねえ、と、どこか退屈そうな顔で言うこのおっさんは何を考えているのやら。
「2年生はみんないい子すぎるんだよ。僕に対して遠慮がちだし。もっと若い子とふれ合いたいんだよ!」
「安部ちゃん、うどんに飯野も呼びます?」
「呼んで呼んで! もー、ホント君たちは卒業させたくないなあ」
「飯野はともかく、俺は卒業するんで」
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