発熱のオモテ技

「ファー」


 屋外での体育が堪え始める12月。先生の目がないゴルフ練習場2階では、何となくうだうだとした空気での打ちっ放し。アタシは春学期もゴルフを履修していたタカちゃんとここに逃げ込んでいる。

 体育の何が辛いって、水曜日の午前中ってトコが。アタシは火曜深夜にバイトが入ってるから、バイト上がりで割とすぐ体育に来なきゃいけない。そもそも去年落とすなって話ですよねー。


「あー、疲れた」

「果林先輩、バイト上がりで本当によく2限の体育に来れますよね」

「むしろ体育だから来てるよね逆に」

「必修だからですか」

「それもあるけど、座学って無理じゃない?」

「そうですね」


 体育の授業では、基本2人でひとレーンを使うような感じになっている。本当にぼっちのひとは一人でレーンを独占出来るけど、グループで来れたような人たちは交代で打つような感じ。

 アタシとタカちゃんのいる2階は春学期の履修者用ということもあって1階と比べると人が少ない。1人で1レーン使えるような感じ。だけど、アタシとタカちゃんは2人で1レーンを分け合っている。

 アタシがひとカゴ打ち終われば、タカちゃんがカゴを持って打ち始める。待っている方の人はその間に次のボールを用意したり、ボーッと待っていたりする。その性質上、ケータイをさわりながら、なんてのも余裕。

 2階には先生が見回りに来ないということもあって、疲れたなーと思ったら2人して休憩なんてことも多々。実技試験に必要な最低限のことをアタシはタカちゃんから教わっている。こんなとき、そこそこ運動神経良くてよかったと思う。


「って言うかタカちゃんそんなカッコで寒くない?」

「寒いですけど、晴れてるので別に」

「それ下ヒートテック的なの着てるの?」

「いえ、着てないです」


 タカちゃんが言うには、今からそんな物を着ていたらもっと寒くなったときに耐えられなくなる、とのこと。雪国ならともかくここは向島。そんなびっくりするほど寒くなるようなことはないと思うんだけどなあ。

 それに、高ピー先輩とかいう寒がりな人を見ているからこそ余計にタカちゃんが薄着に見える。実際、薄いシャツとジャケットだけで歩いているから服装としては冬と言うよりは秋なんだろうけど。


「果林先輩もいつもと同じジャージですよね」

「アタシはヒートテックとか薄手のダウンベストとか着てるもん」

「そうなんですね。やっぱり、そういうのを着た方がいいんですかね。持ってはいるんですけどタイミングがつかめなくて」

「持ってるんだったら着た方がいいよ。てか持ってたんだ」

「あ、はい。実家で優勝セールやってたときにまとめ買いしました」

「それなら値段も神ってたんでしょうよ……買ったなら着ようタカちゃん」


 タカちゃんは気合いと根性で暑さ寒さは何とかなると思っている節があるのだろうか。それとも1年目の様子見なのか。ホットの午後ティーのボトルで手を暖めているのはよく見るから、一応寒いとは思っているようだけど。


「何て言うか、肌着や上着に頼るんじゃなくて、体温を上げる必要があるのかなと」

「タカちゃんは、保温じゃなくて自分で発熱する能力が欲しいってこと?」

「そんなようなことです」

「タカちゃん、最高の方法を教えてあげよっか」

「お願いします」

「あったかい物を食べて動くことだよ」


 肌着をケチろうが、暖房をケチろうが、その気になればしばらく頑張れる。だけど、食べ物は生きていく上でケチれない物。アタシがたくさん食べるからとかじゃなくて、それはみんな同じ。


「タカちゃん、食べなきゃいくら動いても熱は生まれないの。肌着はケチっても食べ物ケチっちゃ生きられないよ」

「さすが果林先輩、説得力があります」

「体育終わったら肉まん食べようよ。一発であったまるよ」

「いいですね」

「さーて、そろそろ打ちますか」

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