濃い青春と後輩
「源、悪かったなドタキャンして」
「いえ、病気なら仕方ないですよ。朝霞先輩、もう体はいいんですか?」
「ああ。だいぶ良くなった」
源から観劇に誘われていたのだけど、その当日になって熱を出してしまったものだからキャンセルした。本当に見たかったんだけど、体はしんどいしバキバキだし、外に出て動ける状態ではなかったのだ。
あんまり酷いモンだからインフルなんじゃねーかと思って病院に行ったらただの風邪だったときの恥ずかしさだ。体がバキバキで痛かったのは、あまり長い時間同じ姿勢でレポートを書いていたからだと思われる。
薬を飲んで、(大騒ぎをした山口が作りに来た)卵粥を食べて大人しくしていたら熱も引いて動けるようにはなったけど、見逃した舞台は帰ってこない。どうしてこのタイミングだったのか。神のイタズラか何かか。
「余ったチケットはどうしたんだ」
「ダメ元でエージに連絡してみたらタカティの部屋にいたみたくて、すっごいノリノリだったんで一緒に見ました」
「エージってアイツだろ、夏合宿で戸田と組んでた文学ロック坊主。アイツ、演劇にも興味あるのか」
「エージも高校は演劇部で、それで話が通じて仲良くなったんですよ」
「そうだったのか」
尤も、源は裏方だったがエージはバリバリの演者だ。しかしまあ、源のコミュ力はすげーなと素直に感心する。ギリギリまで諦めない姿勢なんていうのも伺える。アホみたいなポジティブさは鳴尾浜に似たのだろうか。
舞台はやはり主演女優が世界観を作っていたということらしい。源にはその女優に対するある種のフィルターが備わっているのだろう。ブランドと言うか箔と言うか、そんな物が上塗りされたフィルターだ。
俺も舞台を純粋に見たかったけれど、そこまで主演女優をごり推しするからには脚本を読んだ上でどう世界観を作っていたのかを穿った目で見てみたいと思ってしまう。いや、悪い癖だとはわかっているけれども。
「なんか、エージとはお話を書くっていうところに話が発展して。エージ、ラジドラを書いてみたいそうなんですよね」
「あれっ、緑ヶ丘ってラジドラやってなかったっけか」
「緑ヶ丘はやってないみたいですね。なので、ウチでやってるのを羨ましいって言ってました」
「って言うか、演じるんじゃなくて書く方をやりたいのか」
「朝霞先輩と一度話してみたいって言ってましたよー」
「まあ、それは言ってもらえればいくらでも会うけど」
インターフェイスでラジドラをやっているイメージが強いのは確かにウチか向島くらいだった。緑ヶ丘でやっているのは正統派のラジオ番組がほとんど。ラジオドラマをやっているという話は確かに聞いたことがない。
向島のラジドラは息抜きにやっていると圭斗が言っているように、ノリがいい意味でヒドい。パロディやブラックなネタは当たり前だ。ただ、機材王国向島だけに編集なんかの技術はガチだ。
エージが参考にしたいのはなっちの書くブラックなラジドラじゃなくて、俺の書く普通のラジドラなのだろう。俺の話が少しでも参考になればいいなとは思う。あわよくば好きな本とかの話をしてみたい。面白い奴だとは戸田から聞いている。
「エージって家どの辺だ? 場所セッティングするならどの辺がいいかな」
「エージは山浪の奥の方ですけど割とタカティの部屋にいるらしいんで、朝霞先輩の部屋近くで問題ないと思います」
「あと、好きな食べ物とか」
「食べ物はともかく、飲み物はビール派です」
「……じゃあ、あそこか」
「多分それが喜ばれると思います。串とる~び~と朝霞先輩で問題ないです」
今回の舞台に関する話も、エージの目で見てどう思ったかを聞いてみたい。源の話だけでは偏りが出るだろうから。そうやって考えると話したいことはいくらでも沸いてくる。さて、会談はいつ実現するだろうか。
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