魅惑のエメラルドリーフ

「春山さーん、これってー、どうやって食べたらいいですかー?」

「すげーなダイチ、いいキャベツじゃないか」


 今日は非番の烏丸が突然キャベツを持ってセンターに現れた。そのキャベツは見た目も美しく、大きさも上々。その大玉のキャベツが3玉。これにその場にいた者は皆、目の色を変えた。


「わ、わーっ! 高級品だーっ!」

「やァー、目映いスわ」

「この大きさならひと玉何百円しますかねー……何日分の食費だろう……」


 川北、土田、そして未だ居着いている綾瀬がすごいなー、いくらするんだろうなーとキャベツを目の前にして興奮を隠せない様子。しかし、いくら大玉とは言えキャベツはキャベツ。そこまで驚くような品だろうか。


「ダイチ、これどうしたんだ? またサツマイモの時の友達か?」

「はい、そうなんですよー。大学の畑の隅っこでこっそり自前のキャベツを育ててたらしいんですけどー、思いの外よく出来たって分けてくれたんです。でも俺、芯をかじる以外の食べ方がよくわかんなくって」

「あー、まあ、芯は大体かじらねーけど、どうやって食べるかなあ」


 野菜を分けてくれる友達がいるとか羨ましい。1・2年がそんな顔をしている。1・2年生は、と言うかよくよく周りを見渡せばオレ以外の面々は皆一人暮らしをしている。野菜に対する価値観が違うのもその辺りが原因かもしれん。

 相談を持ちかけられた春山さん以外の面々も、キャベツの食い方を考え始める。生食なのか、加熱するのか。加熱するにしても焼くのか煮るのかでまた変わる。キャベツを用いたメニューを考えるだけの夕方。余計腹が減る。


「メインにするかサイドにするか」

「まあ、それはどっちでも」

「ほら、コールスローみたいな感じにしてもいいよな」

「こーるすろー」

「学食のサラダバーにもあるぞ」

「怖くて学食使ったことないんです」

「春山さん、烏丸が栄養補助食品と食パン以外の物を食ってる光景を見たことがありますか」

「ねーな」


 そもそも芯をかじる以外の食い方を知らん奴にコールスローという単語が通じるとも思えん。キャベツを細く千切りにして、などと調理法から説明して、ネットで検索した画像を見せるところまでが説明の第一行程だ。

 すると当然、キャベツを使うメジャーな献立であるお好み焼きやロールキャベツなんかも、どのような料理であるかというところから説明をしなければならないのだ。お好み焼きは小麦粉と具材を混ぜ合わせた物を鉄板の上で焼いて~などと。


「どうだダイチ、いろんな案が出たけどやってみたいのは見つかったか」

「いろいろな料理があるのはわかったんですけど、自分じゃ出来る気がしないですし怖いので葉っぱを毟ってそのまま食べることにします」

「うん、まあ、それも一つの食い方ではあるけどなあ」


 するとどうだ。1・2年から「もったいない」の大合唱。と言うかコイツらがそこまで仲良しだった覚えもないし、こんなときばっかり気が合っているようにしか見えん。しかし、そのまま食えんことはないのがまた何ともな。


「せっかくのキャベツなのにそのままって…! 烏丸さん、私が代わりにいただきましょうか? 私なら保存食にも出来ますし」

「あっカナコそれはズルいスわ。カナコ反則なンで自分が代わりに」

「冴さんだって抜け駆けじゃないですかー! 俺だったらおやきの中に入れたりも出来ますしー!」

「知ってるか川北、北辰じゃおやきっつーとまた別の物を指すのでキャベツは私が欲しい」


 キャベツを巡って始まる醜い争い。烏丸は一言も「誰かにあげる」とは言っていないのにこの有様だ。オレはもらったところで自分で調理が出来るワケでもないし、一応は自宅生であるのだから参戦資格もやや満たしていない気がする。


「そうだ、ユースケは何がいいと思う?」

「この季節だし、鍋がいいのではないか? ああ、何故か無性に煮込みラーメンが食べたくなってきた」

「煮込みラーメン」

「土鍋などに市販の麺と好みの具材を入れて煮て食う物だ」

「俺、鍋ってやったことなくてさ。鍋って1人でやるものでもないでしょ?」

「やってみればよかろう」

「ユースケが食べたいって言ってる煮込みラーメンは興味あるけど、調理が出来ないので春山さんお願いします。あと、うちに設備はないからミドリのおうちに行っていい? いっそみんなでお鍋つついてキャベツパーティーにしましょう」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る