ただいまおかえり一周回って
簡単なお土産があるのでご飯を食べに連れて行ってくれないか。もちろん、日付が日付だし薬指が留守だったらでいいけど。
――なんていう回りくどい連絡が入る。菜月さんだ。どうやら実家から戻ってきたようだ。彼女がご飯に行こうと言うときは大体ラーメンだから、今日もそのつもりでいていいだろう。
「はい。つまらない物ですが」
「素晴らしい物だね」
彼女がよこしてくれた緑風のお酒セットをありがたく頂戴して、それを大切に後部座席に移す。しかし、結構豪勢なセットだけど見た感じ値が張りそうだ。僕の知っている菜月さんの台所事情を思えば、大奮発じゃないか。
「菜月さん、実家暮らしはどうだった?」
「ごろごろしたり、バイトをしたりだな」
「バイトだって!?」
「日雇いの派遣だぞ。吊り札付けの仕事をしてたんだ」
「吊り札付けか。菜月さんに向いてそうだね。現場系の単純作業だし。時給はいくらだい?」
「900円だな」
「ん、まずまずだね」
8月は8月でお盆にオードブルの盛りつけのアルバイトをしていたそうだし、9月は9月で吊り札付けのバイトをしていたとかで少し給料が入っていたそうだ。僕へのお土産費用はそこから捻出されたらしい。
オードブルの分と吊り札付けの分で7万ほど。きっとそれも瞬殺してしまうからこその菜月さんなんだけども、なくなってしまう前にサークル費を前払いしてもらった方がいいような気がしないでもない。
「ところで菜月さん、ラーメンで良かったんだろう?」
「ああ、そのつもりだった」
「その辺は安定だね」
「圭斗と2人でステーキハウスとか、ビュッフェっていうのも何か違うだろ」
「そうだね」
菜月さんが実家にいた間、サークルに変わったことはなかったかと聞かれた。菜月さんに報告するような特別な出来事はなかったように思う。強いて言えば野坂が空元気だったりした程度で。
ヒロが野坂に無茶を言うのもいつものことだし、りっちゃんのラブ&ピースも日常。神崎が三井を怒鳴りつけるのも最近はよくあることだし奈々のピー子ちゃん動画も毎回同じだ。うん、特に変わったことはなかったね。
「ピー子ちゃんと言えば、星ヶ丘の越谷さんが奈々の義兄になるとかならないとかっていう話はどうなったんだ?」
「その件は基本悪乗りだからね。越谷さんを煽った結果水鈴さんを女性として意識するようになればわからないけど、今のところそんな様子はないそうだから」
「まあ、うち越谷さんとあんまり面識ないしどんな人かもよく知らないんだけど」
「ガタイが素晴らしいね。男としては実に羨ましいと思うよ」
「お前と比べたら誰だって素晴らしいだろ」
「ん? 菜月さんは男の肉体を知っているのかな」
「どういう意味で言ってるのかは知らないけど、高校はバスケ部だからある程度は見てるぞ」
「それは失礼しました」
そういう点で言えば野坂なんかは菜月さん風に言えばうまーな肉体美なんじゃないかと思うんだけど、言わない。夏合宿の風呂で鉢合わせた時は、僕もマイナスのピークだったし比較にもならなかったよね。
「3年の男でお前の思う肉体美は誰かいるか?」
「うーん、そうだね。とりあえず大石君はガチだね」
「ああ、大石は素晴らしいな!」
「ん、菜月さんは大石君の体を知っているのかい?」
「大石は何気にうちのフェチをいくつかくすぐってくるからな。ファンフェスの班打ち合わせはとても楽しかったぞ。腕とか胸板も触らせてもらった」
「へえ、菜月さんのフェチねえ。興味深いな」
「お前に言ったらなにをどういじられるかわからないから言わないけど」
「あとはスポーツマンという意味では高崎とか山口君がベターじゃないかい? 高崎の背中はさぞ広かっただろう?」
「何を言わせたい」
そりゃあ、僕に何かが筒抜けたら何をどういじられるかっていうのはよくわかってるだろうから? あんまりやりすぎると僕の命も危ういけど。うん、やっぱり菜月さんがいてくれると実に楽しいね。
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