心の目で見る七等星
野暮用でやってきたサークル棟を歩いていると、何やらこの時期らしからぬ騒々しさ。わいわいという声や作業の音が廊下に反響している。つかロビーと廊下塞いで作業なんかしてんなよ、どこのサークルだよ。
まあ、冷静に考えれば学祭の準備か。もうひと月ちょっとだもんな。MMPが準備するのは番組、つまり主にソフト的な物だから、ハード作りの大がかりな作業をすることもそうそうない。こういうのも風物詩だろうけど苦手だからMMPでよかった。
「あっ、野坂くんだおはよー」
「磐田先輩! おはようございます!」
その人山の中からひょっこりと飛び出してきたのはゼミで知り合った磐田先輩。夢の国の某ネズミとか、最近表にはあまり出なくなったっぽいけど、某テレビ通販番組の社長のような高い声が特徴だ。声自体は柔らかい。
「磐田先輩、これは何をされているのでしょうか」
「あっ、邪魔だよねごめんね」
「いえ、それはいいのですが。何やら大がかりな作業ですね」
「これはねー、学祭で出すプラネタリウムを作ってるんだよ」
「プラネタリウムですか! そう言えば天文部だと仰っていましたね」
プラネタリウムと言えば、菜月先輩がよく行ってみたいなあと仰っているではないか…! いや、でも学生が作る物だし規模はお察しだよなあ。自爆覚悟で科学館にお誘いするべきか否か。ああ悩ましい。
学生が作る物だし規模はお察し。とは言えハードを組み立てる作業自体への興味はある。出来る出来ないは別にして、だ。ただ、俺が知っているプラネタリウムの作り方とは様相が異なる気がする。ドームでも作ってるのかという風貌だ。いや、デカさの問題かな。
「あのケーブル群は」
「光ファイバーだよー」
「光ファイバー?」
「普通の手作りプラネタリウムって、光源がひとつで、幕か何かに穴を開けて星を表現するでしょ? 今うちの部がやってるのは、星を直接光ファイバーのケーブルで表現するっていうヤツでねー、その方がより実際の星空に近い雰囲気になるんだー」
「それはすごいですね! しかし、そのような物を手作り出来るのでしょうか」
「うん。多分平気。緑風にこの形式のプラネタリウムをやってる施設があるんだ。規模は小さいんだけど、そこも手作りだって言ってたから。大体の作り方も教えてもらったし、位置計算とかプログラムは俺とか情報系の部員でやっててー」
ナ、ナンダッテー!? サラッと言うけど何気にこれはすごい情報じゃないか! このテのメカメカしい話は何気に菜月先輩もお好きでいらっしゃるし、それも元ネタは緑風の小さい施設とか菜月先輩ホイホイじゃないか!
「光ファイバーケーブルはどうされたんですか?」
「こういう大学だからねー、あるところにはあるんだよ。安く譲ってもらえたから部の会計さんに怒られなくて済んだよー」
「へえ、そうなんですね」
やっぱり磐田先輩はサラリと仰るけど何気にすごいことじゃないか! 何だろう、声とふわふわした雰囲気が話のスケールを感じさせないし、わかる人にしかわからない凄さという何かもうわからないぞ!
夢の国のネズミだけに魔法か何かを使えるのだろうか、それとも某通販番組だけに何となくへーそうなんだと思わせる話術か何かか!? さっきもさり気にプログラムでナントカって言ってたしすげーな密かに。
「あ、そう言えば野坂くんてどこの部屋に用事なの? ごめんね足止めしちゃって」
「いえ。俺はそこのMMPなんですが、特に急ぎではないですし楽しい話だったのでむしろ声をかけていただいて感謝しています」
「ああ、お昼の放送とかやってるよね、知ってるよー」
「えっ、ご存じなのですか!」
「実はちょっと興味があって見学にも行ったんだよ。機材がかっこよかったよねえ」
「ナ、ナンダッテー!?」
ナンダッテーと俺の声が廊下に反響して、何事だと視線が一気に突き刺さる。すみませんと控えめに一礼。何かが違ってたらサークルでもご一緒していたのか…! もし磐田先輩がいらっしゃったらラブ&ピースの空気はちょっと和らいでいただろうなあ。
「あっごめんねまた引き留めちゃって。良かったら学祭でプラネ見に来てね」
「はい、ぜひ。またいろいろとお話を聞かせてください」
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