旅の途中の子どもたち

「野坂先輩はミキサーなのにどうしてそんなに番組に対する考え方がしっかりしてるですか」


 マリンからの突然の質問には、どう答えたらいいか迷った。俺は番組に対する向き合い方にアナウンサーもミキサーも関係ないと思っている。番組に対する考え方がしっかりしているというのはともかく、それに「どうして」と聞かれると。

 ただ、その質問に対して脊髄反射的に当たり前じゃないかと答えることも出来ないでいた。学校が違えば事情も違う。ましてマリンはステージメインの星ヶ丘大学に属していて、何もかもが向島と比べることは出来ないのだ。


「ラジオは基本的にアナとミキ、2人で作る物だから。ミキサーもちゃんと番組とアナウンサーさんに向き合ってなきゃ何も出来なくなると俺は思ってる」

「へえ、そうですか」

「逆に、マリンはミキサーがどう番組に向き合ってると思ってた?」

「偏見ですけど、ミキサーはPから言われた通りにこなすだけっていう印象で、自分で考えると言うより与えられた仕事を淡々とやってるっていう感じです」

「なるほど、ステージだとそういうミキサーもいるってことか」


 やっぱりマリンには星ヶ丘で見ているミキサーの印象が前面に来ているようだった。それはステージという俺には未知のカテゴリーだけに何とも言えないのだけど、言われたことをただこなすだけだなんて、ミキサーとして死んでいると思う。


「確かにラジオでもそういうミキサーはいると思う」

「じゃあどうして野坂先輩は違うですか」

「俺の場合は――」


 自然と菜月先輩に引っ張られていたというだけの理由だ。気付いたらそうなっていた。どうしてそうするべきか、そうすることによって何が起こるというような理論めいたことはすべて後付けで。

 もちろんマリンに話す上ではその後付けの方が大事になってくると思う。なぜ俺は番組とアナウンサーに対して真正面から向き合い、自分で物事を考えてミキサーを扱っているのか。


「少なからず、ミキサーとしてやりたいことがあるからだろうな」

「やりたいことですか」

「ああしたいな、こうしたいなって考えがあれば、そうするためにはどうすればいいかって考えるだろ。だけどアナウンサーさんがあることだから、必要があれば指図も助言もする。俺はただアナウンサーさんから番組構成を受け取るだけじゃなくて、自分も一緒に作りたいと思ってる。アナとミキは2人でひとつだし、ミキサーは最も近いリスナーだから」


 そう話すと、マリンは「なるほどです」ととりあえずは納得してくれたようだった。ペアを組んでわかってきたけど、マリンはたまに物騒だけど基本的には真面目な子だ。目を輝かせて語ってくれたステージに対する姿勢には感心させられた。

 憧れのプロデューサーがいて、その人の班に入れてくれと頼み込み、現在はその人の下でプロデューサー見習いとして日々勉強していること。夏合宿に出ると言った時に、その人は部での立場は気にしないで行ってきなさいと送り出してくれたこと。

 プロデューサーになりたいだけあって構成は1年のこの時期にしては出来ている。つばめと話すきっかけにという動機はともかく、インターフェイスに出る以上、それもきちんとやり抜きたいという気持ちは見える。ならば、俺はその想いに応えるだけだ。


「野坂先輩ありがとうございますです。インターフェイスに出てきて、少しですけどいろんな考えがあるってわかりましたですよ」

「たぶん、マリンの班長さんは技術だけじゃなくてそういう気付きでマリンが一回り大きくなるようにってIFに送り出してくれたんだろうから、一緒に頑張ろう」

「はい、よろしくお願いしますです」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る