揃うwin-win-win

 随分変わった面々での食事会だ。顔を合わせているのは僕と菜月さん、それに星ヶ丘の朝霞君と山口君。

 僕と山口君との接点はあまりない。ある日、彼から連絡が来て、定例会終わりでも何でもいいから朝霞君とご飯に行ってくれと頼まれた。

 正直、僕も今はそこまで食欲がないし、定例会終わりに伊東ならともかく朝霞君とご飯に行く機会もさほどない。それこそ身内の山口君が自分で朝霞君を誘えばいいのでは、と。

 ただ、ステージの前はレッドブルとウィダー以外の物を口にしなくなる朝霞君だ。山口君と顔を合わせていると当然プロデューサーモード。食事の話に耳を傾けるはずもなく。


「つまり、“朝霞P”でいる必要のない場に賭けた」

「そういうこと~、松岡クンありがと~」


 こちらもあまり接点がないのは菜月さんと朝霞君。2人はメニューを開いてあれが美味しそうだ、これもなかなかなどと談笑している。こんな食事会に菜月さんを連れ出すには、ラーメンうまーで釣るしかなかった。


「でも、確かに食べないとバテるというのは実感しているよ。定例会は向舞祭の練習が始まってなかなかしんどくて。そうそう、奈々のお姉さんの水鈴さんにもお世話になっているよ」

「でしょでしょ、水鈴さんは凄いMCさんでね~、って! 聞いてないよ朝霞クン!」


 向舞祭こうぶさいというのは向島エリア一帯で行われる夏の祭で、エリア内の何ヶ所かの街の真ん中にサテライトステージを設けてドデカく行われる。

 向島インターフェイス放送委員会のスポンサー企業様も祭に提供をしていて、その関係で僕たち定例会メンバーがスタッフとして駆り出されている。


「そりゃ言ってないからな。お前は丸の池ステージに集中しろ。本来なら飯食ってる時間も惜しいのに」

「まあまあ~、今日は無礼講でしょでしょ~? ほら、松岡クンと議長サンいるんだし朝霞クン笑って笑って~」


 それぞれが注文をして、それがテーブルの上に届くころには場は程よく盛り上がっていた。やっぱりムードメーカーは山口君。

 山口君に対して、身内の朝霞君と対策委員時代に因縁があった菜月さんがツッコミを入れるという様式美に、2人は固く握手を交わした。菜月さんと朝霞君は仲良くなりそうだ。


「朝霞、食べないのか? のびるぞ」

「朝霞クンは猫舌だからすぐには食べらんないの~。あっ、議長サンと松岡クンは先に食べちゃって~」

「ん、それじゃあ遠慮なく」

「朝霞、辛み増しの瓶を取ってくれないか」

「これか?」

「そうそう、悪いな」

「なっちは辛いのが好きなんだな」

「議長サンおかしいんだって舌が~」

「ウルサイ、黙れ」


 いつものように菜月さんは辛いラーメンに辛み増しの調味料をどばどばと追加していく。僕はよく見る光景だけど、他校の人からすればやはりおかしいらしい。

 猫舌の朝霞君は、目の前のラーメンが食べられる温度になるのをひたすら待っている。山口君はそれに付き合うように、ひたすら僕に話を振って来る。菜月さんが食べるときに喋らないのを知っているからだろう。


「そ~いえば、こないだつばちゃんから書類見せてもらったけど~、2人とも合宿に出るんだね~」

「僕たちはエージェントなんだ。三井の暗躍を止め、野坂に魔の手が迫るのを阻止するのが使命だ」

「フ~、カッコイ~」

「あ、そう言えば。うちの班にゲンゴローがいるぞ。学校ではお前たちの班なんだろう?」


 この話題に、星ヶ丘勢の顔が変わった。押されてしまったスイッチを、どうにかして元に戻さなければ。山口君はそんな顔をしている。


「なっち、源の話をぜひ聞かせてほしい」

「それはいいけど、食べてからにしないか。朝霞はまだ一口も食べてないじゃないか。それにうちデザートも食べたい」

「わかった。ラーメン食べてから、甘い物を食べつつ」


 班員の話題に、朝霞君の朝霞Pスイッチがオンになってしまった。班員の話を聞きたさに普段は小さな一口でもぐもぐする朝霞君が、まるで飲むようにラーメンをすすっている。


「山口君、せっかくオフに出来ていたのにね」

「ホント、議長サンってナチュラルにやらかすでしょでしょ~……」

「精神にも肉体にもエネルギーを補給出来たと思えば、ね」

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