お祭り男の晴れ舞台

「はーあぁ。どっかにかっこいいモデルガン転がってないかなー」


 大きな溜息とともに、何とも物騒な呟きだ。ただ、その呟きを宙に投げたのがつばめだという時点で違和感はない。つばめが多少物騒なくらいじゃ驚かないよな。

 今日は真司の地元の夏祭りに予定の合ったIF2年生の何人かで遊びに来ている。みんな普通の私服だけど、真司は緩く着こなした浴衣に狐面という気合の入りよう。これがお祭り男か。

 確かに祭らしい雰囲気だ。日が落ちて、通りに並ぶ提灯に明かりが灯ればグッと空気がそれらしくなる。屋台も稼ぎ時を迎えたようだ。


「どうするんだつばめ、モデルガンなんて」

「ステージの小道具。洋平に持たせんのに魔法少女のステッキと拳銃って言われてんだけど見つかんなくて」

「魔法少女のステッキはおもちゃ屋だろ」

「そっちはゲンゴローのが自前であるんだけど問題はモデルガンよ。クソたけーの」


 するとこの話題に食いついてくるのは真司だ。話を聞くと、真司は趣味でサバゲーをしているらしく、このテの話はマジパないらしい。大学近くにそんな遊びが出来る場所があるのだそうだ。


「つばみ、ガンもピンキリだぞ。高いのはウン万するし」

「つか一応そっちもおもちゃ屋とかに行ってチラ見じゃね?」

「そーしてみる。でも朝霞サンこだわるからな~。水鉄砲でいいかって聞いたらふざけんなって怒られたし」

「水鉄砲はちゃっちい」

「でも高いんだって! ただでさえ予算ないの! 朝霞サンが金出すのかって話! レッドブル何本我慢させたら買えるかな!」


 やいやいとつばめの愚痴は延々と続く。ステージ系大学はそういうところで大変なんだなと思っていると、リンゴ飴を持ったヒロがくいくいと俺の服の裾を引っ張ってくる。つかどこほっつき歩いてたんだ。


「どうしたヒロ」

「ねえねえノサカ、ボクあれやりたい」


 ヒロが指さしたのは射的だ。祭の華と言えるだろう。まったく、いつにも増して自由だなヒロのヤツめ。はぐれても知らないぞ。


「おっ、ヒロやんのか?」

「ハマちゃんサバゲー好きなんやから射的も上手いんやない? 先お手本見せてくれん?」

「当然! 射的のハマとは俺のことよ!」

「おいつばめ」

「ナニ野坂」

「射的の景品見てみろ。めっちゃかっこいいモデルガン置いてるぞ」

「マジ!? つかあれアタシ惚れたのに高くて諦めたヤツじゃん!」

「まあ、釣りだろうけどな」

「射的は5発500円……ハマ男、2000円までなら出す。つか朝霞サンにレッドブル絶たせる。だからあれ取って」

「20発もいらねーよ」


 そう言って真司は鉄砲を構える。発射時に体のブレはない。コルクが飛んで、お目当てのガンの箱の下部を捉える。少しずれはしたけど、落ちるまでには至らない。

 2発目。再び箱の下部を捉え、少し回転する。当たるけれどもなかなか落ちないモデルガンに、ヒロとつばめが落胆の溜息を浮かべる。そう軽い物でもないだろう。取らせる気がない景品のはずだ。そして3発目。


「よし、行った」

「ナ、ナンダッテー!?」

「ホントに2000円以内で落ちた!」

「ハマちゃんマジパないよ!」

「あと2発あるな。ヒロさんへのお土産にしよう、あの変な人形」


 長野先輩へのお土産も残り2発でしっかりゲットした真司マジパねえ。つか祭の効果も手伝って何割か増しでイケメンに見えるぜちきしょう! 浮かれてるように見えた狐面もかっこいいじゃないか!


「ほらつばみ、朝霞サンへの土産だ」

「ハマ男、この借りは必ず返す」

「つか合宿のこととか連絡してもらってんだからつばみが俺に貸してんだろ? 借りを返す必要があったのは俺じゃんな。いつも世話になってます」

「お、おうよ。じゃあ、そーゆーコトにしといてやるよ」

「また何かあったら頼むぜ」

「お前もな」


 いい話ダナーと俺がこの光景を見ていると、さっきまではそこにいたはずのヒロがいない。アイツ、どこに行きやがった! つか射的やるんじゃなかったのか!


「野坂、ヒロなんて探すだけ無駄だし総合案内所的なところで迷子扱いにしてもらえば?」

「そうだな。デパートとかじゃなくてインフォメーション放送がかからないのが悔やまれるけどな!」

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