囮のエアリズム
「タカシ、30分番組やってみる?」
「30分番組ですか?」
「高ピーとも話し合ったんだけど、そろそろやってみてもいいんじゃないかなって。相手は果林にお願いするし。ちょっと、思ったように構成を考えてみてくれるかな」
――と、タカシに話して1週間。こんな感じでどうですかと提出されたキューシートを前に、唸る俺と高ピー。何が悪いとかではなく、期待、脅威、とにかくいろいろな物が沸き上がる番組構成。
確かにお遊びでクロスフェードをモノにしてみたり、ちょっとやり方を聞いただけでエコーで遊び始めるわ、好奇心の固まりみたいな子だなーとは思ってたけど。うん、これは面白いことになりそうだ。
「この構成は逆に果林の技量が問われるな。伊東、お前は何も指図してねえんだろ」
「ホントにタカシが持ってきたまんま。面白いね、やっぱり先入観のない1年生ってすごいよね」
「よし、この構成のままやらせてみるか。本当に出来れば出来ただし、出来なければイメージに近付けるよう練習するだけだ。どんなにいい構成が浮かんでも、具現化出来なきゃ持ち腐れだ」
「そうだね」
高ピーからのゴーサインが出れば、本格的な番組制作が始まる。
30分番組はMBCCで一番多く作られる形態の番組だ。代表的な物で言えば昼放送がそう。だからか、どこか型にハマりやすいという傾向がある。型にハマるというか、テンプレ通りって言うか。向島の昼放送もウチのそれに似てる。
オープニングがあってM(曲)やって、食堂のお知らせからの
「伊東、作品出展に出してみるか」
「この番組を?」
「ああ。ヨソの評価を聞きてえ」
「そうだね、考えてみよっか」
向島インターフェイス放送委員会では、月ごとの持ち回りで作品出展という企画がある。これは、各大学が制作した番組を提出して、
ちなみに今月はウチの担当だったりしたことを、ちょっと前までのごたごたですーっかり忘れてた。あぶねーあぶない。もし手ぶらで定例会に行こうものなら圭斗にボロクソ言われるところだった。
「つっても、この1本だけじゃ芸がねえな」
「誰かの昼放送でも録る?」
「それもいいけど、あくまでモニターさせたいメインは高木の番組だ。そっちを聞かせてえし、もう1本は可も不可も面白味もクソも誉めどころも叩きどころもねえ無難も無難な空気番組にしねえとな」
「逆に難しいねそれ」
「まあ、そんな芸当が出来るのはお前以外にいねえよなあ、伊東」
「うへー、またムチャ振ってくるねー」
可も不可も面白味もクソも誉めどころも叩きどころもない無難も無難な空気番組ってなかなかなムチャだ。さすが高ピー、求めてくる物のハードルが高いぜ! そうなると、それを実現し得るアナウンサーは、という話で。
「岡崎でも誰でも好きな奴をアナに指名して――」
「そりゃあ高ピーでしょ」
「果林風に言えば“ですよねー”だな」
さて、先入観のない1年生の構成と、技術を結集して作る3年生の空気番組はインターフェイスじゃどのように受け入れられるのか。果林の成長にも期待したいところ。よーし、締め切り厳守で頑張るぞー。
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