千鳥のバクダン

「慧梨夏サンよく見たら足に何か物騒なヤツしてますねー! サイボーグみたくてかっこいーっすー!」


 さっちゃんが言う“物騒なヤツ”というのは足首用のサポーターのこと。うちは昔から足首の捻挫がクセみたいになっていて、こうやって固定用のサポーターをしながらプレーしている。

 このサポーターがちょっとお高い分本当に固定されるヤツで、プラスチックの部品なんかもくっついてたりするから叩くとコンコンって音がする。ちょうどいい締め具合を探すのに最初は苦労したなあ。


「慧梨夏ちゃんは足首にバクダン持ってるからね」

「バクダン」

「クセになってるケガのことだよ」

「ほほーう、ひとつ賢くなりました! 慧梨夏サン慧梨夏サン、それしてみたいです! つけた感じが気になって気になって。きっと夜も寝れなくなるんで!」


 バッシュも履いちゃったけど、サポーターをつけてみたいと言うさっちゃんのためにもう一度脱げば、ベリベリとマジックテープの剥がれる音が体育館じゅうに響く。何気にドリブルの音にも負けないんだよね、これ。


「こうやって足を入れて、ちょうどいい締め具合を見つけるの」

「ほうほう」

「で、テープで留めたら、この上からバッシュ履いて」

「おーっ! 変な感じーっ! 慧梨夏サンよくこんなの履いてフツーに歩いてますね! わはっははは、変な感じー!」


 千鳥足までは行かないけど、辿々しい足取り。うちも慣れないときはそんな感じだったなあと思い出す。だけどさっちゃんはちょっとふらふらしすぎな気がする。鵠っちもガン見してるし大丈夫かなあ。転んだりしなかったらいいんだけど。


「さっちゃん、そろそろ脱ごうかー? 戻っておいでー」

「はーい」

「あっ、三浦避けろ!」

「えっ? ぎゃあああっ!」


 バターンと大きな音がしたかと思えば、さっちゃんが尻餅をついている。その脇では体勢を崩したらしい鵠っちがコートに倒れ込む。転々と転がるボールは、壁に跳ね返って動きを止めた。


「鵠沼クンが死んだ!」

「勝手に殺すな。つかそんだけ喋れりゃ大丈夫だな」

「……いたーい! めっちゃ痛い! あーん! 慧梨夏サーン、足首ー!」


 救急箱を持ってさっちゃんに駆け寄れば、どうやら今の交錯でさっちゃんは足首を捻ってしまったようで。さっちゃんめがけて飛んでいったボールは鵠っちが弾いてくれたみたいだけど、ビックリして転んでグキッと。

 痛いー、痛いよーと悲鳴を上げるさっちゃんに、どうしたどうしたとみんな集まってくる。そんな人垣の中で、履いてる物を全部脱がせてコールドスプレーをぶっかける。……けど、この感じじゃ意味はなさそうだなあ。


「ゴメンねさっちゃん慣れないもの履かせて」

「履かせろって言ったのはあたしですからー、でもいたーい!」

「最初に言うの忘れてたんだけど、サポーターした状態で捻るとめっちゃ痛いんだよね」

「もっと早く言って下さいよー! あっそこそこー冷や冷やー」

「慧梨夏サン、結構酷い腫れだし医者か緑大の保健センターに連れてった方が良くないすか」

「そうだね。うちが連れてくよ。さっちゃん、歩ける?」

「ムリっす!」

「正直でよろしい。鵠っち、負ぶえるよね」

「うす」

「わーいおんぶだー! どっこいせ。どうどう」

「三浦、あんまふざけるなら落とすぞ」


 ごめんなさーいとひとまずこの場は一段落。さて、どこのお医者さんにかかろうか。本人の希望も聞いてみた方がいいよねえ。


「さっちゃん、ケガでかかりつけのお医者さんとかある?」

「慧梨夏サンのおすすめってありますか!」

「星港市内だからさっちゃんの家からは遠いかもしれないけど大丈夫?」

「あっ、星港なら定期の範囲内です! 通いやすそう!」

「あ、それならよかった。じゃあそこのお医者さんに行ってみようか。男前のスポーツドクターがいる綺麗な病院でね、お父さんの院長先生の腕も確かなの」

「へー、楽しみー!」


 さっちゃんがケガを悲観してなさそうなのは何よりだけど、何気にツラいからねえ。早く良くなるといいんだけど。……あと、鵠っちをお馬さん扱いするのはやめてあげてねさっちゃん。

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