不意打ちの二丁拳銃

「ごっちゃんせんぱーい! バンバンッ!」

「あー、撃たれたー」


 フフン、と松葉杖を構えてご機嫌なのは、三浦祥子。俺とは高校の先輩後輩で、大学で絡まれた時はちょっとビビった。大学じゃ大体ゴティって呼ばれてるけど、サチは変わらずごっちゃん先輩と俺を呼ぶ。

 パッと見アホの子だし、脳に行く栄養が全部身長に行ったんじゃないかとか、そんなようなことを思ったこともある。それっくらい悩み事とは無縁そうと言うか、元気な子だなーって生温かい目で見てやるべき後輩というヤツだ。


「さすがごっちゃん先輩! 今までいろんな人を撃ってきたけどごっちゃん先輩だけですよ乗ってくれたのー! さちこ、ごっちゃん先輩、すきー」

「つかお前それどーしたの。そんな大層なモン持って」

「かっこいいっしょ」

「いや、かっこよくはない」

「サークルでグキッとやっちゃったんですよー、めっちゃ痛くってー!」

「あー、そういやお前バスケ始めたんだったね」


 何を思ったか、サチは大学に入ってからバスケを始めたらしい。数の多いバスケサークルの中でもサチが入ったのはGREENs。GREENsと言えば、カズ先輩の彼女さんがいるという関係でMBCCでは一番メジャーなバスケサークルだ。

 そのサークル活動中のケガということで、先輩にいい病院を紹介してもらって今はそこに通っている最中らしい。松葉杖は必要ならつけようかと聞かれて、欲しいと即答したみたいだけど、絶対好奇心からだな。


「つかサチ、俺思ったんだけどさ。この至近距離でバンバンって撃つ銃じゃねーよなそれ、どう考えても」

「はっ…! さすがごっちゃん先輩! 確かにピストルとは違いますもんね! ライフルとかの方がいいですかね!」

「ただ、ライフルじゃあなかなか気付かれないだろうなあ」

「うーん、難しいですねえ」

「それかあれだな。セーラー服と機関銃」

「快っ感…!」

「ただ、あれをやるには周りの理解が必要ね」

「やりたいのは山々なんですけどー、あんまり遊ぶと同期の男の子に叱られるんですよねー」

「そりゃその同期が正しい。別に、ケガしてるからって何もかもを自重しろとは言わないけど、ある程度大人しくしてなきゃダメよサチ」

「はーい」


 松葉杖を松葉杖本来の使い方をしながらの立ち話。ある程度大人しくしてろとは言うもののサチがあんまり大人しすぎても気持ち悪いし、その辺はさじ加減だなとは思う。サークルでもきっとこうだろうし。


「そうそう聞いて下さいよごっちゃん先輩!」

「ん、どしたの」

「先輩から紹介してもらった病院に通ってるんですけど、先生がめっちゃ男前なんですよ!」

「いい男に診てもらえてよかったねえ」

「男前だし腕もいいし優しいし、通うの楽しいんですよ! さすが星港っすよね!」

「へー、星港の病院なのね」

「高崎整形外科クリニックっす」


 あー、そういや聞いたことあるな。星港だし間違いじゃなきゃそれって多分アレだ。高崎先輩の実家。実家はクリニックやってるって結構前に聞いた気すんだよな。へー、評判いいんだな。


「サチ」

「ん?」

「バンバンッ」

「……あっ。ぎゃああっ!」


 指で作った拳銃で、バンバンッと。よし、不意打ち成功。断末魔までの一瞬の間が、俺の勝ちだと告げる。さて、そろそろいい時間だ。


「じゃ、そーゆーコトで。じゃあな」

「お疲れでーす」

「――っと、俺が距離を取ったところで狙撃すんのなしな」

「し~ま~せ~ん~よ~!」

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