襟の色は取り留めなく

 植物園イベントまで1ヶ月を切っている。ABCでは準備が加速して、ステージの練習に道具の準備にとみんな慌ただしい。沙都子は例によって衣装を縫っているし、直は大道具を作る音をトンテンカンと響かせる。


「さとちゃんも直クンも、一息入れない?」

「あ、紗希先輩。ありがとうございます」

「あっ、さとちゃんはまだキリのいいところまで来てないのか」

「ふー、とりあえず一段落です」

「うふふ、糸魚川呉服店も宮崎工務店も忙しそうだね」


 衣装は主に沙都子が担当しているから糸魚川呉服店。これはわかる。いつの間に直まで宮崎工務店と言われるようになったのか。まあ、大道具を主に作ってるのが直だからなんだろうけど。きっと糸魚川呉服店と揃えたのかもしれない。

 紗希先輩が差し入れてくれたお菓子をつまみながら、ちょっとしたティータイム。ヒビキ先輩は1年生を連れて外で練習に出てくれている。2年生はステージの中心となっていろいろ回して行かなきゃいけないという役回り。青女の伝統。


「沙都子、どう?」

「今のところいい感じだよ。3年生の先輩の分はもう出来てるし、今はKちゃんのを作ってるよ。直クン、本当にいい? 今ならまだ間に合うよ」

「ボクは着ぐるみだし、大丈夫だよ」

「作って欲しくなったら言ってね。あっ、着ぐるみもきれいにしとかなくちゃ」


 それこそ沙都子は家でもここでも衣装を作るのに専念している。ステージMCは基本的にヒビキ先輩と私がメインで、沙都子はサブだけど一応はコーナーを持ってもらうことにはなっている。衣装を早々に上げてステージのことを頭に叩き込みたいとは言ってくれてる。

 当日の直はミキサーではなく、着ぐるみを着てステージを盛り立ててくれる予定。この植物園イベントというのが子供を対象にしたイベントという事情がある。今のABCで一番体力があるのは直。去年も着ぐるみで闊歩していた。


「啓子、大丈夫? 構成練るの大変でしょ」

「大変じゃないとは言えないけど、直も沙都子も仕事してるしアタシだけ大変ですーなんて言えないでしょ。それにアタシはパッと見で体使ってないし、何が出来上がったとかっていう成果も見えにくいから」

「Kちゃん、根詰めすぎちゃダメだよ」

「紗希先輩」

「出来た台本は成果じゃなくてスタートだし、終わってみなきゃわかんないから怖いところもあるよね。でも、Kちゃんが頑張ってるのはみんなわかってるから。ほら、糖分糖分」


 チョコチップクッキーが口の中でほろほろほどけて、成果がどうこう考えるのはやめ。アタシたち2年生は、自分のやれることをやり始めた結果がこう。沙都子は裁縫、直は大工、アタシは台本。適材適所に収まるのが自然すぎた。

 一旦髪留めを外して、リフレッシュ。頭の中に籠もった悪い熱を放出するイメージで。ああ、紅茶がほんのり甘くて美味しい。魔法瓶って本当、すごい発明だ。

 あと10分休んだら作業を再開しよう。あと、ヒビキ先輩とも打ち合わせてー……やることはまだまだいろいろ。すると、沙都子がにっこりとこっちを見ているのだ。


「Kちゃん、後で一緒に軽く体操しない?」

「体操?」

「ほら、あたしもKちゃんもずっと同じ姿勢で座りっぱなしだし。ちょっとは体を動かさないと血液の流れが滞りそうで」

「沙都子の言うことにも一理ある。後でやろうか」

「あ、ボクもいいかな。腕に力が入っちゃって」

「それじゃあ、ヒビキたちも呼んでみんなでやろっか」

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る