失墜へのカウントダウン
この時期にしては、部内が慌ただしいような気がする。それは俺の思い過ごしなんかじゃない。明らかにみんなバタバタして、忙しそう。まるでステージの前みたいな、そんな雰囲気。
今から準備を始めなきゃいけないような何か特別なイベントなんてあったっけ。そんな風に首を傾げつつ、放送部が借り上げているミーティングルームの入り口が見える場所で慌ただしい光景を眺めている。
「ぼさっとしてどうした洋平」
「あ、
「こっちはたまったモンじゃないっつーの! 宇部さえいなきゃ日高なんざ秒殺すんのに」
「あはは……ほどほどにね~」
由宇ちゃんが班長を勤める
つばちゃんも結構物騒なことを言うけど、つばちゃんが
「あっ、もうこんな時間かよ、早く行かなきゃ! じゃ、夜道と鬼のカミナリには気をつけな洋平!」
「由宇ちゃんもね~」
大きなポニーテールを揺らして駆けていった由宇ちゃんの背中にひらひらと手を振って。夜道はともかく鬼の雷……つまり朝霞クンの逆鱗とかいう、地味にシャレにならないヤツを想ってゾッとする。一瞬背筋が凍っちゃったでしょでしょ。
さて、そろそろ俺も班のブースに~って思ったら、今度はシゲトラが部屋から飛び出てくる。こちらもなかなかに慌てた様子で。珍しいよネ、世界のシゲトラが慌ててるなんて。いつもはもうちょっとどっしり構えてるはずなんだけど。
「わっ、洋平あぶねーぞ!」
「ゴメンゴメン。シゲトラ、そんなに慌ててどこ行くの~?」
「買い出しだ買い出し!」
「買い出し?」
「ファンフェスでステージ出すことになったろ、そんでやっと台本上がったし小道具作んなきゃいけねーだろ。ったくよー、話が急すぎんだっつーの!」
「ちょっと待って、ファンフェスでステージってどういうこと?」
「あー、やっぱお前は聞いてないのな」
急いでた様子のシゲトラを引き留めて、改めてそのステージについて詰め寄る。ちょっと前まではそんな様子ちっとも見せてなかったのに。それは、バタバタ走り回ってるみんなだけじゃなくて、幹部たちだってそうだ。
シゲトラの話によれば、一昨日になって急にファンフェスでステージをやると班長に通達があったらしい。ただ、唯一その通達を受けなかった班がある。それは、言うまでもなく朝霞班。
「でも何でそんな急に」
「いや? 俺だって聞きてーよ。ただ、やんなきゃ夏はないぞって暗に脅されてんだ、やるしかねーだろ」
「ナニソレ、宇部Pがそんなことを?」
「日高はニタニタ笑ってるだけだったからな。でも、あの様子を見てる限り日高が宇部に言わせてんだろ。宇部は萩さんの弟子だし実力主義だろどっちかっつーと」
「ナルホドでしょ……あっ、ゴメンねシゲトラ、買い出しあるのに引き留めちゃって~」
「いーってことよ! 世界のシゲトラはそれくらいじゃ怒らねーよ!」
駆けていったシゲトラにもひらひらと手を振りながら、今回の件を頭の中で整理した。うん、割と本気で由宇ちゃんの忠告を真に受けなきゃいけないかもしれない。夜道はともかくにしても。
「さてと、っと……」
すると、部室の方からザカザカと大股でミーティングルームに向かう影が。ひらひらと、肩からかけて結んだカーディガンが揺れる。……マズい、これは本当にマズいヤツだ。
「おい、日高はいるか!」
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