自由と責任、それと目覚まし
公式学年+1年
++++
緑ヶ丘大学8号館地下1階、社会学部スタジオ。それがこの教室の正式名称で、実際のところは佐藤ゼミが占拠してゼミ室化している。地下への階段を下っていくと空気がひんやりして、賑やかだった人の声も遠く、小さくなっていく。
重い防音扉を開けば、そこは階段の踊り場。見下ろせば、二重円を描くように設置された座席。昼も夜もなくなるこのスタジオで、2年から4年までの3年間、より一歩踏み込んだことを勉強していくことになるのだ。
実践的なメディア学習のゼミとして。佐藤ゼミはそういう立ち位置。センタービルにはガラス張りのラジオブースを設けていて、昼休みに30分の公開生放送を行っている。希望者数が多く、競争率も高い。今ここにいれるのは運の要素もありそうだ。
「おざーっす」
「おはよう鵠さん。意外と早かったね。今日丼売ってたでしょ?」
「この時期は来てる奴が多いじゃん? だから割とすぐ完売すんだ」
「うう、耳が痛い」
さっそく、フィールドワークを含めた課題番組を作ることが発表された。その番組はあ11月まで、じっくり時間をかけて制作するらしい。そこで、活動する班も編成された。俺のいる3班は4人で構成されている。
「高木、お前で耳が痛けりゃ安曇野なんかどうなる。アイツお前よかもっと来てねーじゃん?」
「まあ、その辺は自己責任だけどね」
「今日は来てるし! いい加減なこと言うな鵠沼」
「今日はっつー辺りが説得力皆無じゃん?」
バスケサークルの白いジャージが特徴的な、見るからに厳つい体育会系なのが鵠さんこと
そして、レザージャケットに横に流した前髪を赤く染めた、見るからに厳ついパンク? ロック? よくわからないけどイメージ的にはそんななのが安曇野さん。
「おはよー」
「あ、おはよう佐竹さん」
「……高木くん、唯香さんと鵠沼くんはまたやってんの?」
「ここまでくると挨拶みたいな感じだよね」
「あー、確かに」
この3班を束ねる班長が、いかにも見た目からしてしっかりしてそうな印象の
「はいはいはい。君たち~、始めるよ~」
先生が湯気の立つマグカップを持って階段を下りてくれば、ゼミの開講。みんなそれぞれの席に着いて、出席が取られるのを待つ。佐藤教授はまあ、イロモノと言うか、変わった先生ではあるけど、まあ、人格はともかく学術で俺はここにいるワケだし。
「安曇野君」
「はーい」
「今日はちゃんと来てるね。この調子で続けなさいよ、出来れば2限もね」
先生にも先の件をしっかりとつつかれてる辺り、まあ、うん、自己責任ではあるけどやっぱりそういう印象になるんだなあって。鵠さんもニヤニヤしてほら見たかと言わんばかりに。
「今日はいない人はいないね。それじゃあバーベキューとTシャツの話をもうちょっと詰めてもらって、それからレジュメね」
まだまだゼミでの活動は始まったばかりだけど、座学も外でのフィールドワークも制作も密度が濃いって聞いてるし、生半可なことをやってたらすぐに干されるって聞いてる。それを抜きにしても活動は楽しみだし、あとは先生の授業に寝坊とかで遅刻しないことだけを気をつけよう。
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