楽園の戦乙女
コツコツと足音が反響するコンクリート打ちの駐車場を抜け、そのまま奥まった建物に入っていけば。視界に広がるのは女の園の最深部、青葉女学園大学放送サークルABCのサークル室がある。
縦に長くて奥行きのあるサークル室の窓とドアは開け放たれ、春のさわやかな風が流れていく……かと思えば空気は淀んでる。女の園なんてそんなもの。部屋は雑然としてるし、ペンキの臭いで充満してる。
「あっ、
「おはよう」
ABCでは、毎年5月下旬に大学近くの植物園でイベントをやらせてもらってる。主に2年生が頑張ることになっていて、今もステージの大道具を作るのに日曜大工の音が響くし、衣装のアイディアを練ってる子もいたりしていろいろ。アタシも去年を思い出すなあ。
「直クン、窓開いてる? ペンキ使うなら換気しないと」
「一応開けてるんですけど、換気扇も付けた方が良かったですね」
日曜大工を主に担当してるのが、女子大のイケメン枠の直クン。
「紗希先輩、衣装はシンプルがいいですか? それとも派手なのがいいですか?」
「シンプルなのがいいな。うふふ、さとちゃんの衣装楽しみー」
衣装担当は生活科学部、平たく言うと家政科専攻のさとちゃん。
「はああ~っ……まったくもうあの子らったら!」
「Kちゃんカリカリしないのー」
「ヒビキ先輩も同罪ですよもう!」
大きなため息をついてサークル室に戻ってきたのが、2年生の実質的まとめ役のKちゃん。
さとちゃん以外のアナウンサーさんは練習に出ていたみたいなんだけど、どうやらそこでいろいろあったみたい。Kちゃんが大変だったんだろうなあといろいろ察してしまう様相。
「Kちゃん、どうしたの?」
「紗希先輩聞いてくださいよ。サドニナとヒビキ先輩がきゃいきゃいふざけて練習にならないんですよ!」
「ユキちゃんは?」
「一見真面目そうに見えますよね。でも、火に油を注ぐんですよ! それをしれっとした顔して楽しんでるんですよあの子は! 全くもう、今年の1年生ったら!」
「元気なのはいいことなんだけどね」
「ヒビキ先輩もヒビキ先輩なんですよ」
Kちゃんの愚痴を大変だったね頑張ったねと受け止めながら、今年のサークルは平和だなあって嬉しくなっちゃう。元気が有り余る1年生も、これだけ元気ならこれから何があっても大丈夫かな、なんて。もう馴染んでるみたいだし。
まだ完全に今年は何もないとは言い切れないけど、サークル室に血の池が出来てるなんて本当にもう嫌。何かあったら、アタシたち3年生が後輩たちを守らなきゃ。そんなようなことをヒビキとはよく話している。
「あっ、そーだ紗希、みんな揃ったし定例会からのお知らせ入れていい?」
「うん、入れて入れて」
「それじゃ、定例会からのお知らせでーす。ファンフェスの班割りが出ましたー」
みんなで楽しく仲良く。ちょっとのおふざけくらいならお咎めなし。この空間を壊すことは、誰だろうと許さないんだから。
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