枷の重さを揚力に変えて

 星ヶ丘大学放送部。60人ほどいる結構大きな部活で、野外のステージイベントをメインに活動している。部では大体5~10人くらいの班に分かれて、それぞれのステージに向けて練習をしたり小道具を作ったり、日々慌ただしい。


「朝霞サン遅いな。洋平、朝霞サンは?」

「定例会であったことをお偉いサンに報告してるはずだよ~」

「フン、幹部だからって偉そーに」


 2畳あるかないか、パーテーションで仕切られて出来たそれっくらいの狭いスペースに3人と班の備品が押し込まれたせっまい空間で、俺は久々にやるラジオ番組のことを考える。トーク内容で頭を抱えるなんてのも何ヶ月振りだろう。

 部室棟ミーティングルームB室、そのドアを開け放ってしまえば、この狭い空間は人目に付かなくなる。これは、放送部の部長が俺たちの姿を見たくないというだけの理由で隅に追いやられた結果。

 キィとドアが動いてこのブースに入ってくるのは、相当気が立ってる様子の班長サマ。自分の席にドカッと座ったと思えば、大きく溜め息をついて舌打ちをひとつ。こりゃ下手に触んないほうが身のためでしょでしょ~。


「朝霞サン、連中に何かされた?」

「いや、単なる定期の活動報告だ。俺たち3人がインターフェイスの方でファンフェスに出ると確定したこととかな。案の定、いい顔はされなかった」

「ありゃ~、やっぱり~?」


 星ヶ丘の放送部は向島インターフェイス放送委員会に加盟はしているけれど、定例会との関係は正直に言えばちょっと微妙。ただ、その中のもうひとつの組織、技術向上対策委員会との関係は結構いいからよくわからないデショ。

 それで、今現在星ヶ丘の放送部からインターフェイスの定例会に派遣されてるのが朝霞クン。正直他に誰もやりたがらない貧乏くじ。そもそも、うちの部ではインターフェイスのイベントに出ること自体がちょっと変な目で見られるところがある。インターフェイスはウチじゃやらないラジオメインだからかなあ。

 だけど、俺たち3人は元々みんなから変な目で見られてるからそんなことは関係なくやりたいように出来る。ここは“流刑地”とまで呼ばれる部の最果て。変わり者とかはみ出し者の集団、それがこの朝霞班。

 班長はプロデューサーの朝霞クン、朝霞薫あさかかおる。ステージにかなりストイックで、鬼のプロデューサーと呼ばれて恐れられてる。サンバイザーがトレードマークの2年生ディレクター・つばちゃんこと戸田とだつばめ。ちょっと気性が荒いよね。そして俺、ステージスター・山口洋平やまぐちようへい。朝霞班は現在この3人で構成されてる。


「宇部はいつものように淡々と報告を受けてたんだけど、日高が不気味だったなと思って。何か、ニタニタほくそ笑んでるって感じで」

「日高がキモいのなんかいつもじゃん。朝霞サンがテメーに何かしたかよ。キンタマついてんのか、ちっちゃい野郎」

「つばちゃん、女の子でしょ!」

「日高の嫌がらせなんか今に始まったことじゃない。気にするだけムダだ。その時間があればネタが練れる」

「幹部の連中、マジでいつか絶対ぶっ潰す」


 そして朝霞クンも俺がそうしてたのと同じようにネタ帳を開いた。俺よりももっと間が空くラジオの作業。産みの苦しみがその顔から読みとれる。やっぱり朝霞クンはこうでなくっちゃ。


「って言うかさ、2人してラジオのネタ練られてもアタシがすることなくなるんですけど! おい、聞いてんのか洋平!」


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