力と事情のジグソーパズル

「それでは、15分押しで定例会を始めます。伊東、何か言うことは」

「毎度遅れてきてすみませんでしたぁっ!」

「とか言って次も遅れるでしょ?」

「ビッキーそれは言うの反則だって」


 5月にあるファンタジックフェスタに向けて、向島インターフェイス放送委員会では会議の頻度も高まっている。定例会は加盟7校の2・3年生が主な参加者で、インターフェイスの人間であれば会議を見ることは許されている。

 議長は僕、向島大学の松岡圭斗。委員長は緑ヶ丘大学の伊東一徳。毎度プチ遅刻がヒドい。副委員長は青葉女学園大学の加賀郷音かがさとね、通称ヒビキ。ここまでが三役。IFの活動のウェイトがラジオにあるということで、三役はラジオメインの大学から選ばれることが多いかな。

 3年生はあと4人。星港大学の大石君、ステージメインの星ヶ丘大学からは朝霞あさか君。そして映像メインの青浪敬愛大学あおなみけいあいだいがくからは松江まつえ君が出ている。もう1校、桜貝大学からも人は出ているけど、活動にはほとんど参加しないし会議の出席率も低い。


「それじゃあ改めて、班を詰めるよ。定例会3年と対策委員経験者は基本班長で、ステージ系班長の班にはラジオメインの学校から人を入れる。ここまではいいね」

「カオルの班には果林とこーたがいるし、よっぺの班には野坂。カオル、これで問題ないよね?」

「助かります」


 そう言って軽く頭を下げる朝霞君は、“鬼のプロデューサー”と呼ばれ内外から恐れられている。ただ、それはステージに関わるときの話で、ラジオ関係の時は気のいいあんちゃんだ。むしろ少し腰が低いような気さえする。


「大石君の班はミキサーが1人だけどLだし、菜月もいるから大丈夫かな」

「Lなら何とかしてくれるよね! 何てったって緑ヶ丘だもん!」


 大石君はどこかのほほんとした雰囲気をまとった和み系。鬼のプロデューサーに対して仏のプロデューサーと呼ばれることもある。学校が違うから単純にプロデューサーとしての働きは比較できないけれど。

 そして、大石君の班の話題になると急に隣が静かになる。ちらりと様子を窺うと、どこか不敵な笑みを浮かべているようにも見える。ん、そうだね。お前の職権をフル活用して決めた班割りなんだから。


「緑ヶ丘だからって1人はキツいっすよ、2年なのに」

「おいL、俺の前でもう1回それ言ってみろ」

「サーセンした」


 緑ヶ丘には「ミキサーは実践で鍛えろ」という慣わしがある。僕の前の定例会議長だった城戸きど女史もそれをよく言っていて、伊東もそうやって育てられてきた。そう、今まさに伊東はミキサーを鍛える側に回っている。

 “L”というDJネームを与えられた男は、細身の長身を震わせながらなっち先輩をどう捌けって言うんだと嘆く。それはお前が直属の先輩に目を付けられたのが不運だったとしか言いようがない。


「カズってホントLにだけ厳しいよな」

「まあ、その辺は身内だし。カオルも身内には厳しいっしょ」

「あれくらいは普通だ」


 とりあえず、残りの班をいかに組むか。学校の特色、パート、学年、男女比、そして人間関係などなど。考慮する点はいくらでもある。職権濫用が許されるのは、どこの利害にも一致する場合のみ。


「って言うか圭斗の班が全然埋まらないんだよなー」

「あと誰が余ってる? それか動かせそう?」

「ん、無理に僕を班長にする必要はないんじゃないかな。伊東の班はアナが足りてなくなかったかな、僕はそこに」

「圭斗お前どんな職権濫用だ!」

「ん、お前に言われたくないね」


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