生きた教科書と歴史

「はーい、それじゃあ今日はファンフェスについてのお知らせー」

「おっ、やっとか」


 今日のサークルは、伊東先輩のお知らせから。ファンフェス、という聞き慣れない単語が出てきたけど、高崎先輩の反応からすると、その存在自体は前々からあったのかもしれない。きっと俺が知らないだけ。


「班割りはもうちょっと待ってね。で、当日のスケジュールはこんな感じ。タイムテーブルも一緒に貼っときます。集合時間は定例会は7時半、それ以外のみんなは8時半に地下7番出口。そっからみんなで集まって来てもらって」

「行きゃIFのブースはわかんのか」

「多分」

「多分ってなあ」


 さっそく専門用語がいっぱい飛び出していて、何が何やら。2・3年生に対するお知らせなのはわかってるんだけど。そもそも、この時点ではまだ加入が確定してる1年は俺だけだし。


「何か質問ある人ー」

「はーい」

「はい果林」

「いっちーセンセー、タカちゃんが置いてけぼりでーす」


 挙手をしながら言った果林先輩の言葉に、3年生の先輩からの視線が突き刺さる。まじまじと見られて「まだだったっけか」と聞かれても、何がですかとしか答えられない。それっくらい置いてけぼりだ。


「それじゃあ一歩踏み込むぞ。こないだ、伊東にDJネームを付けてもらったな」

「はい。他校の人と付き合うときの名前になるって」

「MBCCは向島インターフェイス放送委員会っつーのに属してる。ウチ込みで7校の放送系団体が集まった組織で、技術向上だとか作品出典だとか、そういうので交流してんだ」

「で、そのインターフェイスで毎月やってる会議が定例会。ウチからは俺とLが出てるよ」


 インターフェイスに属する学校はウチみたくラジオをメインに活動してる大学だけじゃなく、ステージイベントを主体にやってるところとか、映像作品をメインにしてるところがあったりして、本当に様々。

 インターフェイスでやる活動の基本はラジオ。それは、2年前まで行われていたスキー場DJという活動の名残。だから、ラジオメインで活動している緑ヶ丘にかかる期待やプレッシャーは大きいそうだ。


「ファンフェスっつーのは星港のど真ん中にある公園でやってるイベントで、IFアイエフはそこにDJブースを出して公開番組をやってんだ」

「他校の人と班を組んで番組を作るんだよ」

「そうなんですね」

「高ピー、部屋に去年の同録どうろくある?」

「ディスク2枚に跨がるモンをどうしろっつーんだ」

「え、今タカシに聞いてもらおうかなーって思ったんだけど、やっぱ長いか」

「当たり前だ」


 こそっと、同録ってなんですかって果林先輩に聞くと、番組を録音したディスクのことだよと返ってくる。同時録音の略で同録。去年のファンタジックフェスタで行われた高崎先輩の番組のそれは部屋にあるらしい。


「えー、去年のヤツなんて絶対いい教科書じゃないですか、タカちゃんに聞かせてあげましょうよ、何てったって伝説なんですから!」

「伝説? 不可抗力の間違いだろ」

「確かにあれは不可抗力によるムチャ振りだったなあ……」


 去年その現場であったことは知る由もない。果林先輩は、予定がないなら勉強にもなるし見に来るといいよと勧めてくれた。確かに、イベントの雰囲気は独特だし、星港の街にも慣れたい。当日は見に行ってみよう。でも去年の番組って。気になるなあ。

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