組み上げる日常
この間ビラをもらったサークルがちょうど興味のあるような感じだったから、とりあえず見学をしてみる。入学式のときにもらったキャンパスガイドを片手に、散策ついでに。ええと、現在地がここだからー、こっちか。
ビラに書いてあった連絡先にメールを送ってみると、4月上旬の平日は毎日開放されていて、誰かしらがサークル室にいるからいつでも来ていいと返信があった。本当は正規の活動日に行った方がいいんだろうけど、思い立ったが吉日とも言うし。
「ええと、ここか」
コンクリート打ちのサークル棟に着いて、建物の案内図を見る。部屋番号が205ということは2階でいいのかな。階段を上って、一部屋ずつ表札の番号とそこに書かれた文字を確かめていく。
吹き抜けを挟んで向こう側はどうやら運動部の部室が固まっているようで、自転車を担いだ人や陸上選手のような人が行き来している。すると、こちら側は文化系の部屋が固まっているのか。出版部、美術部ときて……あった。放送サークルMBCC。
「こんにちはー……」
恐る恐る扉を開けると、そこには男の人が2人と、もぐもぐと口を動かしている……えーと、小柄だし多分女の人がいる。俺も含めてみんな固まっていて、あ、えーと、これ、俺はどうしたらいいんだろう。
「見学か?」
「はい。いつでも開いてるってメールで聞いて」
「わー、ちょっと散らかってるけど座って座って! ほら高ピー、待ってみるものじゃん、へきしっ!」
パーカーを着た男の先輩がくしゃみを飛ばしながら俺の座る席を作ってくれる。部屋の奥の方にいる茶髪の先輩は淡々とした様子だし、黄色い先輩は相変わらずもぐもぐと口を動かしている。
「よし、それじゃあいくつか聞かせてもらうぞ」
茶髪にピアスの先輩がバインダーを持って俺の前に座る。これから面接めいた物が始まりそうな雰囲気で緊張する。何て言うか、“圧”とか“オーラ”ってこんな感じなんだろうなって。
「名前は」
「
「高木な。学部学科は」
「社会学部メディア文化学科です」
「ふーん、妥当だな。実家か一人暮らしか」
「一人暮らしです」
「出身は」
「
この他にも、いろいろなことを聞かれた。サークルの見学ってこんなに緊張するものなんだなあって。いや、きっとそれは誰に、どのように聞かれているのかもあるのかもしれない。
「MBCCを知ったきっかけは」
「あ、えっと、ポスターが貼ってあったのと、学部のオリエンテーションの時に佐藤ゼミのラジオブースでビラをもらって」
「あ、それアタシアタシ!」
「そうだったんですね」
「――とまあ、こんな具合にウチのサークルはメディ文とか佐藤ゼミの奴を引っかけやすい。何がやりてえとかはあんのか。ヒゲゼミのブース見たなら何となくイメージはつくだろ、機材のグレードは落ちるけどな」
「あ、機材の方です」
「入る体でいいんだよな」
「はい」
「話が早くて助かる」
面接を担当していた茶髪にピアスの人がアナウンス部長でサークルの実質的トップで3年生の高崎先輩。俺と同じメディア文化学科で絶えず何かを食べていたのが2年生の果林先輩。
初対面だし千葉先輩と呼ぶと、下の名前で呼んで欲しいと言われた。女の人ってそういうものなのか、少し気恥ずかしい。中高一貫の男子校卒で女の人とあまり接したことがないのだと言えば、まずは女っぽさの欠片もないコイツで慣れろとは高崎先輩。
そして、これから俺が一番お世話になるだろうと言われたのが、機材部長で3年生の伊東先輩。ミキサーとしての腕はもちろんのこと、「MBCCの母」の異名を持つ人柄でもって派手さはないけどサークルを影で支える人なのだと。
「とりあえず、基本は月水金。でも、開いてる日は誰かいるだろうから来ていいぞ」
「じゃあ、明日来ます」
「明日は正規の活動日だし、もっと人がいるはずだ。伊東、さっそく明日から育成開始だ」
「そうだね、楽しみだよ。よろしくねタカシ」
まずは、ここから踏み出す大学生活。サークルってそれっぽいし、興味のあることに触れるのならそれはいいことだと思う。これからどんな風になっていくのか、楽しみだなあ。
「それでだ高木、お前、酒は飲めるクチか?」
「はい?」
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