マリフィツァ連邦編

第13話 集合


 辺りが次第に明るくなっていく。目を開けるとそこには俺と亜沙ちゃんの他に8人の男女と本を小脇に抱えたユルグが居た。


「やぁ、皆さん。私が『マリフィツァ連邦』長、スペルガム・ユルグです。それではこの屋敷を軽く案内致しましょう。あ、部屋は一人一人にありますのであしからず」ユルグは本を右手に持ち、両手を広げる。その後ついて来いと言わんばかりに歩いていく。そして、俺を含め10人は文句も言うことなく付いていく。どうやら全員覚悟は決まっているようだ。


しかし、俺はここで奇妙な物が目に入った。いや、別に奇妙と言うほど奇妙でもないんだが…。


 さっきまでユルグが小脇に抱えていた本は見えず、代わりと言うように活発そうな身長170前後ぐらいありそうな長身の金髪の少女(少女と言うよりお姉さんと言った方が適切かもしれない)がユルグの前を歩いているのだ。


 あ、あれ?俺は目を擦り、目を凝らす。すると今度はちゃんと本に見える。


 き、気のせいか?でも、あの本…何処かで……。


何処か引っ掛かりもありながらも俺もユルグに付いていった。


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 ユルグはたくさんの扉のある廊下の前で止まった。


「この部屋がこれから皆さんに住んで頂く部屋となります。ああ、部屋には既に設備が色々と揃っていますよ。ただ、お風呂と食事は別の部屋となりますのであしからず」そう言ってユルグは俺達一人一人に部屋の鍵を渡した。


「部屋割りなど気に食わなければ自分たちで勝手にいじってもらって構いませんので。話し合いなどはこの部屋でやってください」ユルグは目の前の部屋を示す。よく見れば鍵は2つ付いている。どうやらこの会議室的な部屋の鍵のようだ。


「お風呂はここで、男女分かれております。食事はそこの部屋です」ユルグは歩きながら順々に示していく。


「とりあえずこんな所でしょう。それでは各々部屋で寛いでいてください。今日はこれ以上何もする気はありませんし、食事の時は侍女の方々が迎えに来るでしょう」ユルグはそんな言葉を残して姿を消した。


「あー、とりあえずそれぞれ自己紹介でも、しねぇか?あの、会議室的なところでよ」ユルグが姿を消してからすぐに黒い髪を短く切りそろえた長身の男が頭をバリバリと掻きながら提案した。


「それもそうね。これから一緒に暮らす事になるんですもの。素性は明かして置かなければなりませんものね」薄紫色の髪をポニーテールでまとめた女も澄まし顔で同意する。


「なら、早いとこ行こうや」黒髪の男は会議室に向かって歩き出した。俺達はそれについて行った。


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「それじゃ俺から自己紹介させてもらおうか」黒髪の男が席を立つ。


 会議室には大きなテーブルがあり、そこに人数分の椅子が置いてあった。今はその椅子にそれぞれ座っている状態だ。


「俺の名前は虹咬 祝詞(ニジガミ ノリト)歳は20だ。能力はー言った方が良いか?」黒髪短髪の男ー虹咬 祝詞ーは俺達に問うてきた。


「ええ、“能力”も晒しましょうか」薄紫のポニーテールが答えた。


「なら晒すかー俺の“能力”は《捕縛》2人までの行動を制限できるって能力だ。俺についてはこんな所か次はー」


「私ね」薄紫のポニーテールが答え、立ち上がる。それと同時に虹咬さんも座る。


「私は子守 結衣(コモリ ユイ)、年齢は21よ。“能力”は《反転》。モノの性質を逆転させるって能力ね」


「ここからは時計回りに行きましょうか」


「なら次は僕かな」子守さんの右隣の赤髪の男が立ち上がり、子守さんは座った。


「僕は、谷田 勇刀(ヤタ ユウト)年齢は19、“能力”は《移動》。短い距離を瞬間的に移動する能力だよ」


 そこからは順序よく進む。


次は薄い翠色をした髪を肩あたりで短く切りそろえた女。

「ボクは大森 暁(オオモリ アカツキ)年齢は18、“能力”は《植物》。体の一部を植物化させるのと植物を操る事が出来るよ」


大森さんの次は

「私は佐野 姫乃(サノ ヒメノ)年齢は17、“能力”は《治癒》。その名の通り軽い傷なら瞬時に重たくても心臓さえ止まっていなけれは大抵は治せるわ」白髪をサイドテールにした女もとい、佐野さん。


佐野さんの次は大柄な禿頭の男。

「私は羽原 綴(ハバラ ツヅル)だ。歳は21。“能力”は《記憶》。見たもの聞いたものを速く、深く記憶することが出来る」


羽原さんの次は非常に小さい。下手をすると亜沙ちゃんとどっこいどっこいくらいの背の黒髪の女

「私は麻宮 夜未(マミヤ ヨミ)歳は17よ。そこ!“嘘っだー”みたいな顔しない!全く…。

“能力”は《遅延》。対象の動き何かを遅く出来るわ」


俺の知らない人の最後はツンツンと尖った黒髪短髪のまだ幼さの残る顔の少年

「オレは八頭 颯斗(ヤズ リュウト)9歳だ!“能力”は《加速》。その名の通りの能力だ!」


俺を除く最後は亜沙ちゃんだった。

「わたし…は…狼神 亜沙(オイガミ アサ)…。8歳。“能力”…は…《獣化【狼】》…。主…な効…果は…身体強化…デス…」


「これで終わりだよな?」


 だよなぁ…やっぱり忘れられるよなぁ…


「まだ9人しか言ってないと思うよ?」子守さんが数を数える。


「でも、見当たらないぜ?」


 自分から言わないとダメだな。


「あー俺です。まだ自己紹介してないのは」俺は軽く手を挙げながら立ち上がる。


すると亜沙ちゃんを除く8人が一斉にこちらに振り向く。亜沙ちゃんは自分が言い終わってからずっとこちらを向いていた。


「俺は緋野 断矢(ヒノ タツヤ)。歳は16です。“能力”はー《遮断》です。能力については…言葉のとおりです。他者が情報などを見ようとしても遮られてしまいます」


「だから、気付かなかったのか」虹咬さんが確認をとる。


「そうなりますね」


「なら、これで全員かー。とりあえずこれからよろしく」


 全員が返事を返した。


「なら、次は部屋割りか。このままでいいかな?」


「八頭くんと狼神ちゃんはまだ10歳にもなってないんだから誰かと一緒がいいと思うわ」


「それもそうか。なら、八頭くんと狼神ちゃんは誰かと相部屋とするか」


「八頭くんは虹咬さん、貴方で狼神ちゃんは私って形でいいと思うのだけれど」


亜沙ちゃんが爆弾を投下した。


「…わた…しは…断…矢お兄…ちゃんと一緒が…いい…」


俺を含めた9人がギョッする。そして亜沙ちゃんを除く8人が一斉にこちらを向いた。今度は目線が痛い…。


「…狼神ちゃん、緋野くんと一緒がいいの?」


亜沙ちゃんは頷いた。


子守さんは困ったような顔を浮かべ、諦めたように吐息した。

「…はぁ。仕方ない。本人がこういってるんだからそれを尊重しましょうか」


「なら、俺と八頭くん、緋野くんと狼神ちゃんが相部屋って事で」


「ええ、そうしましょうか」


「なら、これで解散って事で。改めてこれから宜しく頼むわ」虹咬さんは席を立ち部屋を出ていった。それに続いて俺を含めた全員が席を立ち、部屋から出ていった。


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 それから数時間後、侍女さんに呼ばれ晩御飯を食べ、風呂に入った。


俺が部屋に帰ると亜沙ちゃんに一緒に寝たいと言われた。


 俺は反対したがしつこく食い下がる亜沙ちゃんにとうとう折れ、一緒のベットで横になり、会話を交わしていたら亜沙ちゃんがスウスウと寝息を立て始めた。安心しきった寝顔を眺め、俺も目を閉じ眠気に身を任せた。

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