第12話 迎え


 訓練を始めて遂に1週間が過ぎた。


そう、今日は『ネウトゥラ自治区』長、蟻塚 甲の家に『マリフィツァ連邦』のスペルガム・ユルグが同盟を組むかどうかを聞きに来る日である。


ユルグと蟻塚さんとの会合は『ネウトゥラ自治区』全土に生中継される予定だ。


そして、俺は今その生中継を観る為に客間に来ている。周りには月視や静華、亜沙ちゃん、視信さん、燕さんなどが一緒にいる。


「こんにちは、『ネウトゥラ自治区』長、蟻塚 甲さん。今日は1週間前に話した同盟について答えを聞きに来ました」ユルグは蟻塚に対して頭を下げる。


「ええ、それではお座りください」蟻塚はユルグに席に着くよう勧める。


ユルグは席に着く。続けて蟻塚もユルグの向かいの席に着いた。

「それでは早速、同盟はどうされますかな?」ユルグは世間話などせず、単刀直入に蟻塚に問う。


「はい、その話ならこちら、『ネウトゥラ自治区』は『マリフィツァ連邦』と同盟を結びたいと思っております」

マスコミがざわつく。


 やはり、受けるのか…。ここで、断矢達10人の運命は決まった。


「おお、それはそれは。ありがとうございます。では、書類などにサインをしましょうか」ユルグは何処からかペンを取り出す。


「それではこちらにお願い致します」蟻塚はユルグに向けて書類を渡す。


ユルグは書類に目を通し、サラサラとサインしていく。


サインし終わった所でユルグは蟻塚に書類を返す。


「それでは、これからお願い致します」蟻塚はユルグに手を差し出す。


「ええ、こちらこそ。被害は出しませんよ」ユルグは蟻塚の手を取り握手をする。


その瞬間フラッシュがたかれ、目がチカチカする。


「それでは、選ばれた10名の皆さん。これから迎えが行くと思いますのでそれに従ってくださいね。あ、持ち物があると思いますので迎えは今から1時間後にしましょうか。それでは皆さん、私はこれで」そんな事を言ったユルグは次の瞬間、その場から姿を消した。


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「ふぅ、これで良かったかな?」ユルグは虚空に話しかける。


ユルグが今居るのは『マリフィツァ連邦』にある自室であり、そこには彼以外誰もいない。あるのはたくさんの本棚とそこに並べられた、これまたたくさんの本と1組の机と椅子、机の上にある背表紙のない書くらいだ。


『ウ〜ン、うちはいいと思うよ?』ユルグの問に明るい少女の声が帰ってくる。


 気付けば背表紙のない書は無くなり代わりにユルグの目の前に長身の活発そうな金髪少女が立っていた。


「そう?君にそう言ってもらえると私も頑張ったかいがあるよ。私も君に気に入られようと必死だからね」


少女は一瞬キョトンとしたと思ったら、声を上げて笑っていた。

「あはは、うちが気に入ってるのは君とあと1人“彼”だけだよ」


「その“彼”を探すために戦争起こしたのは何処の誰だったかな?」


少女は笑いを収め、冷静な顔をする。しかし、何処か楽しげにも見える。

「ユルグー皮肉はよしなよー。それに加担してるのも君なんだから」


「それもそうだね」ユルグは苦笑する。


「全く、早くこんな不毛な戦争を終わらせたいものだよ。なあ、そうだろ?『マリフィツァ』」


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 今、断矢は『マリフィツァ連邦』の迎えが来るのを荷物のチェックをしながら待っている。


 えーと、忘れ物は……ないな。うん、よし、大丈夫だ。


ちなみに今の断矢の格好はジーンズに無地のTシャツの上からチェックのシャツを着ている。“隠蔽の蓑”はカバンの中に“小太刀『陰陽』”もカバンの外側のポケットにしまっている。


断矢は少し大きめのカバンから顔を上げて静華に手伝ってもらっている亜沙ちゃんの方を見る。


「そっちは大丈夫?」一度広げた荷物をしまっている亜沙ちゃんと静華に話しかける。


「はい、大丈夫ですよ兄さん」静華は荷物をしまう手を止めてこちらを振り返り答える。


「だい…丈夫…」亜沙ちゃんの格好は視信さんから貰った青っぽい短パンとシャツその上から黒いパーカーを着ている。


「そっか、時間はーもうすぐかな」断矢は右腕に付けている腕時計を見て確認した。


「行っちゃうんですね兄さん…」静華は悲しげな表情を浮かべる。


「……まあ、チャットとか出来るし、他にも連絡の手段はある。今生の別れじゃないんだからそんな顔しないでくれよ」


 静華の気持ちは分かる。俺だって出来るなら離れたくはない。でも、受け入れなきゃいけないこともあると思っているから…それが運命なら…受け入れるしかない。


「…静華…姉…ちゃん…大丈夫…だよ?断矢兄ちゃんは…わたしが…守る…から」


亜沙ちゃんの言葉に俺と静華はギョッとして顔を見合わせる。


 まだ小さい子供なのに…むしろ俺が護らなきゃならないのに…亜沙ちゃんは俺を守ると言うのだ。やっぱりこの娘は何かが違うんじゃないのか…?


「…兄さん、亜沙ちゃんはこういってますが兄さんが亜沙ちゃんを護って上げてくださいね?」


「もちろんだとも。燕さんから多少の手ほどきは受けたから…まあ、できる範囲で頑張るよ」


「ええ、その方が兄さんらしいです。くれぐれも無理はしないでくださいね」


「ああ、出来る事を一所懸命に頑張るよ」


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 数10分後、迎えがきた。


俺と亜沙ちゃん、そして他のみんなはあんぐりと口を開けていた。


なんと迎えに来たのユルグ本人だったからだ。


「こんにちは皆さん、あ、私が来たのは想定外でしたか?でもこれが一番効率がいいんですよね。それで、断矢くんと亜沙ちゃんはどの人かな?」ユルグは笑顔を絶やすことなく続ける。


「あ、断矢は俺です。で、亜沙ちゃんはこの娘です」俺は亜沙ちゃんの手を引いて前に出る。


「そうか、君が断矢くんと、亜沙ちゃんね。それじゃ、早速行こうか。別れは済ませたかな?」


「ええ、もう済ませてありますよ」俺は答え、亜沙ちゃんは頷いた。


「なら、行こうか」ユルグは俺と亜沙ちゃんに手を差し出す。それを俺と亜沙ちゃんは握る。


「それでは皆さん、私はこれで」


「またね」俺と亜沙ちゃんは手を振る。すると、みんなも手を振り返してくれ、月視はこちらに声をかけてくれているように見える。でもその声が届くことはなかった。なぜなら…


その言葉が聞こえてくる前に俺達は闇に包まれたからだ。

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