第11話 一種の……


 訓練が始まって6日が経過した。

俺は今、半壊した学校に来ている。横には月視も居る。


 なぜ学校に来たかは今日の朝、燕さんから「今日まで休み無かったし休みも必要だから、今日は訓練休んで好きにしていいよー」と言われた俺は部屋でゴロゴロしていた。すると、月視が部屋にやって来て「今日、学校を見に行こうと思うんだけど断矢も一緒に行こうよ!」と言われ、やる事も無いなぁと思い「なら、俺も行こうかな」と返事をしたからだった。


「いやーほんとに半壊してるねー。よく良く見たら、見なくてもかな。所々全壊してるね」


「そ、そうだな、結構酷いな…」俺は今それどころじゃない。何故なら俺の右腕は今、月視の胸の中にあるからだ…。


 どうしてこうなった…。確か、歩いてる途中から月視が腕を絡ませてきて…抵抗したけど…無駄に終わったんだっけ…。それから気がつけばこれか。勘弁して欲しいなぁ。周りの目が痛い…。あと、理性が……。


「ねぇ?どうしたの断矢、顔真っ赤だよ?」月視がニヤニヤしながら問うてくる。


 お前のせいだよ!お前の!!


内心怒りを顕にしながらも顔には出さない。と言うよりも出せない。真っ赤になってるからだ…。


「…そんなに赤いか?」


「うん。すっごく」月視が更に抱く力を強める。


 ひっ…!?り、理性が……が、頑張れ!頑張るんだ俺の理性!!


「ふふふ、とりあえず中に入ろうよ断矢♪」そんな俺の内心を察したのか悪戯が成功したと言わんばかりに満足げに笑う月視。


「…そうするか」もうどうとでもなれ…。諦め、月視にされるがままになる俺。


俺は月視に抱きつかれるような格好のまま学校の中に入った。


 そんな断矢と月視の甘い(?)関係を妬ましく見る瞳があったのを彼等はまだ、知るよしもない。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 ちなみに今、俺達は学校指定の制服を来ている。テロにあった時に制服のまま逃げたので、制服は持っていた。


「結構人居るね」月視は先程よりも俺に寄りかかっている。


「…そうだな。多分、学校の体育館が臨時の避難場所になってるからじゃないかな」

俺は学校の窓から体育館の方を見る。人の往来が盛んに行われていた。


 テロがあったのにアクティブだなぁ。


 何故かテロではスーパーなどの食品を売っている場所はほぼ無傷で残っている。だから、食料の心配はない。ただ、住む場所は酷い有様になっていたから、多くの人が体育館に居るようだ。


「とりあえず、職員室に行こうか。断矢が“選ばれた”ってことを伝えとかないとね」


「それって視信さんがやってくれたんじゃなかったのか?」


「そうだけど、断矢のこと忘れるくらいだから損は無いと思うよ」


 いや、それは俺の“能力”のせいだから…。俺はそう言おうとしたが、既のとこでその言葉を飲み込んだ。


 そんな事言ったら、月視とここに来た意味もないか…と思いとどまった。


「分かったよ。念には念を入れてって事だな?」


「そういう事♪断矢分かってるじゃん。ならさっさと行こうー」


「ちょ、そんな引っ張るなよ」月視はさっきまで絡めていた俺の腕を開放し、その代わり手を、握って俺をグイグイ引っぱって歩いていく。


 傍から見たらイチャついてるように見えてるのかなぁ…視線が刺さって痛い…。

 と言うか、こんなに視線を感じることなんて生まれて初めてじゃないか?


 そして俺は月視に引っ張られるようにして職員室に向かった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 今俺達は学校の中庭のベンチに座っている。


 中庭の真ん中には桜の大木、その周りをぐるりと囲んだベンチ。そんな間取り。


「はぁ…疲れたぁ…」俺は伸びをする。


 さっきまで職員室に居た数名の教員から謝罪とその他諸々の事で話詰めていたからだ。


 まさかあんなに謝ってくるとは思わなかったなぁ…。


そんなふうに考えながら俺は空を見上げる。


桜が咲き終わり少しづつ緑が目立ってきている。周りに目を向ければそんな桜がを見に来ている人が沢山いた。


 この桜ってある種の清涼剤みたいな扱いなのかなぁ。


「はい断矢、昼ご飯だよ」月視が何処からかバスケットを出してその中のサンドイッチを渡してくれる。


「ありがとう」サンドイッチを受け取る。

月視は満足げに笑うと自分の分も出して食べ始めた。月視が美味しそうに食べるのを見て俺もサンドイッチを口に運び始めた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 昼ご飯の後も学校の中を回った。そして、学校の中を回っている間月視はずっと俺の腕を開放してくれなかった。


「月視、疑問なんだが」俺は昼ごはんの後からずっと思っていたことを投げかける。


「なぁに断矢?」


「いやな、昼の後は何故学校の中を回ったのか、俺には分からなくてさ」


「あーそのこと」月視は合点が言ったというように声を上げる。


「昼の後も学校を回ったのは、ただの暇つぶしだよ〜」月視は悪びれずに言った。


「てことは、俺はお前の暇つぶしに付き合わされた…と言うことか?」俺は月視を少し睨む。


「イエース♪そうだよ〜」睨んでいるのにそれを意に関さずまたも悪戯が成功したと言わんばかりの笑みを浮かべる月視。


「そうですか…まあ、今日は休みだったからこういうのもありか」


 どうせ月視の家に帰っても部屋でゴロゴロしてるだけだったろうしな。


「そう、あんまり怒らないんだね」月視は意外そうな顔をする。


「ま、いつもの事だしいい加減慣れたよ」事ある事に俺を弄ってくるのだ。嫌でも慣れる。


 そうこうしているうちに日も暮れてきた。


「さてと、そろそろ帰ろうか月視」


「そうだね断矢、帰ろうか」


俺と月視は家に帰るため校門に向かった。


「あ、断矢」月視に呼ばれて月視の方を向く。だがそれは失敗だった。


「んっ」月視は振り向いた(下を向いたと言ってもいい)俺の顔を両手で抑え、そのまま俺の唇に自分の唇を押し当てた。


「んんっ!?」咄嗟のことに行動できなく、月視にされるがままにされる。


ただ、キスしたのは校門をちょうど出るか出ないかの所であり、人の目が沢山あった。


数分後やっと断矢は開放された。

「えへへ、やっちゃった♪」月視は俺の前に周り背中で手を組んで体を前に倒すような格好をする。夕日の朱色とが重なり、その姿を一層際立たせた。


「おまっ!?なんてことするんだよ?!!」俺は突然の出来事に動転していた。


「え?なにって、キスしただけだよ?」月視は小さく舌舐めずりをした。ごちそうさまと言わんばかりに……。


「…お前は一体俺に何をさせたいんだよ」


「別に?断矢が困る姿が可愛いからからかってるだけだよ」後半の言葉は俺の耳元で言われた…。


「あぁぁもう!俺は帰るからな!!」そう言って俺はヅカヅカと月視を置いて露郷邸えと走った。先程の柔らかい感触を忘れたくて。


「あー断矢!?置いてかないでよー」月視は俺を追いかけて走り出した。


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 (あ、あれって露郷さんじゃないか?)たまたま学校に用事があり、学校に来ていて今まさに帰ろうとしていた俺の目に露郷月視の姿が写る。


そして俺はあの光景を目のあたりにしてしまった。


(え?何で男と一緒に居るの?)そう、露郷さんと男が一緒にいる光景だ。


(は?露郷さん、何でそんなヤツとキスなんてしてるの?何でなんでナンデ?)


 露郷さんとその男の唇が重なる瞬間を運悪くも見てしまった俺の心は暗い、ドス黒い感情が渦巻き、その感情に支配されていった……。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

この少年の黒い感情がある悲劇の引き金である事を知る者は居なかった。ある人物を除いて……。


その人物は闇の中で嬉しそうに微笑んだ。

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