第10話 訓練


 訓練を始めて4日が過ぎた。


俺は燕さんのメニュー通り、左手を使うことが出来るようになる為に皿の上の豆と格闘していた。


「はぁ…やっと終わったぁ…」大きく伸びをする。俺の目の前には皿が二つある。一つには豆が10個入っている。もう一方は空だ。そう、豆を皿から皿へ左手に持った箸を使って移動させることがようやく終わったのだ。かかった時間は約1時間。これでも最初に比べれば早くなったほうだ。


「お、断矢くん、終わったみたいだね」ちょうど燕さんがこちらに歩いてくる。


「はい。ついさっき終わりました」俺は椅子から腰を上げ、立ち上がる。


「それじゃ、組手でもしようか」燕さんが木刀を2本俺に投げる。俺は両手を使って1本づつキャッチする。


「だいぶ左手が使えるようになってきたね」


「そうですか?」


「うん。最初よりもだいぶ使えてるよ」


 燕さんにそう言ってもらえるとは…。


 これは嬉しい。


「多少は成長してるみたいですねー。では、先に中庭に出てますね」俺は中庭に向かって歩き出した。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄


 今、俺と燕さんは中庭の真ん中辺りに居る。


「それじゃ、始めようか」燕さんは長めの木刀を中段に構える。


「はい」それに対して俺は右手を前に左手を後ろにして低く構える。


数分、二人ともじっと動かない。


日が雲で陰る。


先に打ち込んだのは燕。中段からの突き。狙いは首元。真っ直ぐに打ち込まれる木刀の切っ先を断矢は左手に持った小太刀で逸らし、続けざまに右手の得物を燕の胴に打ち込む。


が、打ち込まれる前に断矢は倒れる。燕は突きを逸らされた時点で狙いを変え、勢いそのままに断矢に突進していた。


断矢は素早く立ち上がり燕と距離を置く。


「だいぶ、二刀の使い方にも慣れてきたみたいだね。判断を誤っていたら一太刀浴びていたよ」燕は木刀を中段に構え直す。


対する断矢は両手をダランと楽にしている。

「ええ、俺も手応えがあったと思ったんですけどねっ!」


次は断矢が仕掛けた。置いていた距離を一気に詰める。右手の木刀を下から上に斬りあげる。左手は下げている。


燕は斬りあげられる木刀を自分の木刀で防ぐ。すると断矢は左手の木刀も右同様に斬りあげる。燕は木刀を押し込み、その勢いで断矢を後退させる。


「燕さん、別に打ち切ってもいいんですよ?」


「ほー、4日で生意気な口を聞くようになったじゃないか」燕は木刀を上段に構える。


「なら、お望み通りにしてやるよ!」燕はそのまま上段からの袈裟懸けを断矢に浴びせる。


断矢はそれを後ろに下がることで避ける。更にそこから地を蹴り一気に距離を詰、がら空きの胴にまたも打ち込もうとする。ただ、今回は先ほどとは違い、右は腹に左は足に打ち込まれようとしている。しかし、断矢の木刀が燕の、体に打ち込まれることは無かった。


断矢は突如、木刀で右肩を打たれ膝をついた。


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「はい、今回も俺の勝ち〜」燕さんは木刀を右肩において笑いながら手を差し伸べられる。


「はぁ、また俺の負けですか」断矢は差し伸べられた手をとり、立ち上がる。


「まだ、訓練始めて4日しか経ってないのにいい動きをするようになったじゃないか」


「そうですかね〜?」俺は方をすくめる。


「そんなに謙遜するなって、ま、多分お前の戦闘スタイルは【暗殺】になりそうだから直接戦闘はしなそうだけどな」


「そうでもないと思いますけどね」俺は自分の渡された装備を思い出す。


「確かに、渡された装備もあのマントと俺自身の能力を合わせたら感知されなくなると思いますけどね」


「気付かれずに近づいて敵の首を飛ばす。そんな戦闘をしそうだよお前は」


「…まぁでも、その方が効率は良さそうですけどね」


「とりあえず今日の訓練はこれくらいにしとくか」空を見上げれば、日がだいぶ傾いていた。


「そうですか。ありがとうございました」


「そうそう断矢、お前知ってるか?」


「…?何がですか?」


「ああ、それなは俺達の“能力”が実際は2つ以上あるってことなんだがな」


 俺は燕さんの言葉に唖然とした。


“能力”が2つ以上存在する?そんな馬鹿な…これまでそんなこと言われたこともなかったはずだ…。


「最近の研究で分かったらしいんだが、2つ以上と言っても元々存在する“能力”の“発展”したものか、“深化”したものってだけだ」


「“発展”したものは、あー例えば、そうだな、色を付けるって“能力”があったとする。で、そいつが“発展”すれば何色を付けるになるみたいかのが“発展”簡単に言えば本来の“能力”と“似た能力”が増えることだな。それに対して“深化”はその“能力”がより深いものになる事を言うらしい。“深化”中でも最も恐ろしいと言われているのが“能力”表記がカタカナになった場合らしい。どうなるかは、確か、そのカタカナに当てはまる漢字の“能力”が使えるだったかな。こっちは元々の“能力”がそっちに上書きされるらしい」


「そんなの何処に書いてあったんですか?」俺は半目で燕さんを見つめる。


「ん?今日の朝刊だぞ。ほれ」燕さんは俺に今日の朝刊を投げる。


俺は朝刊に目を通す。すると、大きく見出しで【能力は2つ以上存在する!?】と書かれていた。


俺は顔を上げ燕さんの方を見る。

「そんな研究してたんですね」


「みたいだな。人間ってのは貪欲な生き物だからな」


「そうですね」


そこで、俺と燕さんを呼ぶ声がする。どうやら夕食の時間のようだ。


「断矢、行くか」「はい、行きましょう」俺と燕さんは食堂に急いだ。

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