第9話 閣議決定


 訓練を開始して3日が過ぎた。


俺は燕さんの指示で食事の際は左手で箸を使って食べている。流石に3日でどうこうなるような問題ではないのでとりあえず慣れようと頑張っている。


亜沙ちゃんはと言うと真耶さんと毎日組手をしている。あちらはあちらで大変そうだ。


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「ではこれから『マリフィツァ連邦』と同盟を組むかの会議を始める」


 断矢達が心の準備を始めた頃『ネウトゥラ自治区』長、蟻塚 甲(アリヅカ コウ)は自宅の会議室で数名の議員と会議を開いていた。


「やはり、『マリフィツァ』との同盟には乗るべきだと私は思うがね」


「だが、『マリフィツァ』と同盟を結んだ場合、一般市民が兵士として駆り出されるのだぞ?それは許されざる事だと思うのだがな」


「だが、同盟を結ばなければ、また関係ない多くの市民に被害が及ぶぞ」


「くっ…それはそうだが」


「10名の犠牲で多くの市民が救われるのだぞ?10名と多く、どちらを取るかは明確だろう」

各々が自分の主張を言い合い、場がうるさくなる。


「静粛に」その言葉と共に場は静寂を取り戻す。


「とりあえずこの資料を見て欲しい。これは、選ばれた10名のデータだ」各議員に10余枚の資料が配られる。


議員達は配られた資料に目を通す。


「一般市民7名、軍人又は軍関係者2名……おい、1人足りていないぞ」資料には断矢を除く9名の情報が載っている。


「おかしいな…確かに10名分あったはずなんだが…」資料を持ってきた議員が慌てながら資料を確認していく。


「まあいい、良くはないが。とりあえずその1人は市民としておこう」


「それが妥当ですな」とりあえず一般市民と言うことで落ち着いた。


「では、一般市民8名、軍関係者2名と言うことで」


「そうするとしよう。では、会議を進めよう」


「ですね。時間は限られていますから」


「ひとまず、議論の論点は“同盟を結ぶか結ばないか”と言うことで」


「それで行きましょう」


「それでは同盟を組むにあたってのメリット、デメリットについてですが、メリットは『ネウトゥラ自治区』の平和が約束されること。デメリットは一般市民10名を危険に晒すこと。以上と言う面識で宜しいかな?」


「ええ、メリット、デメリットはそんなところです」


「私は『マリフィツァ』と同盟を組むことに賛成だ。10名を危険に晒すのは忍びないが10名以上の市民を救うことが出来る。ならば、残酷だが10名には犠牲になってもらうしかあるまい」


「私は反対だ。『マリフィツァ』は同盟を結ばずとも“我々はそちらに手を出さないと言うことは保証します。”と言っているのだ。組まなくとも良いのではないか?」


「だがそれは、こうも取れるだろう。“『マリフィツァ』は手を出さないが他国が手を出してもそれは知らない”とな」


「…確かにそうも取れるだが!」反対派の議員が言葉を紡ぐ前に蟻塚 甲が口を開く。


「我々は国の事、市民のことを考えなければならない。確かに全員を救うことが出来れば私だって10名をみすみす危険に晒したくはない!だがな、我々はより多くの人々の事を考えなければならない!」


「私だって10名を危険に晒したくはないだがな……私にはこれを覆す代案がない…受け入れてくれ…頼む…」蟻塚甲は真摯に深々と頭を下げる。


場が静まり返り沈黙が流れる。


そんな沈黙を破ったのは反対派のある議員だった。


「…顔を上げてくれ蟻塚長、分かった。我々は多くを救おう。例え確かな犠牲を払ってもだ」


「…ありがとう…私が未熟なばかりに『マリフィツァ』との同盟を結ぶことをどうか許してくれ」蟻塚は一向に顔を上げない。


「…許す、許さないではない。君は勇気ある決断をしただけだ。今からは10名にどのようなバックアップを、するのかということを考えよう」蟻塚はようやく顔をあげる。


「ああ、そうだな」


 その時、会議室の扉が開き蟻塚甲の秘書が入ってきた。


「蟻塚様、露郷重工の露郷視信氏から面会したいとここに来られたのですが如何致しましょう」


「…露郷重工の視信氏か、通しなさい」


「分かりました。ただ今連れてまいります」


 そして視信は会議室に通された。


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「こんにちは、議員の皆様。今日私がここに来たのはある提案をする為でございます」

 視信は部屋に入り、座ることなく喋り始めた。


「提案とな?」ある議員が食いつく。


「ええ、提案です」視信は笑を絶やさずに答える。


「それで、その提案とはなんだ?」


「提案と言うのは、我々、露郷重工は『マリフィツァ』に選ばれた10名に対して武装を渡すと言うものです」


議員達に衝撃が走る。


「本気なのか?」


「ええ、本気ですとも。ついでに軍の方に使い方の訓練をして頂くというのもお付けしましょう」


「…分かった。そんな破格の提案乗らないわけにはいかん。手配など任せて宜しいかな?」


「手配などはお任せ下さい。それでは私はこれで」視信はそう言うと会議室を出るために議員達に背を向け会議室の扉の方へ向かって歩き出す。


「視信氏よ、これだけは答えてくれないか?」蟻塚は視信を呼び止める。


「何でしょうか、蟻塚長様?」


「どうして、そこまでの事をしてくれるのだ。私にはそれが分からない」


「答えましょう。他でもない蟻塚長様の質問ですからね」


「私は10名の皆さんをみすみす殺したくはないのです。なす術なく、死んで欲しくはないのですよ」


「そうですか…では我々も最大限のバックアップを致します」


「その言葉が聞けただけで十分です」視信は今度こそ会議室の扉を開け外に出ていった。


「では、『マリフィツァ連邦』とは同盟を結ぶと言うことで」


「そうですね」議員全員が頷く。


「それでは今日の所はこれでお開きと致しましょう」


 議員達は立ち上がり会議室を後にした。

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