第5話 武装
食堂の扉を開ける。
「視信さん、来ましたよ」視信さん達は各々昼食の時と同じ席に付いていた。テーブルにはコーヒーなどの飲み物が置かれていた。
「うん。それじゃぁ渡そうか」視信さんは足元から大きな白い袋を取り出した。
見た感じがサンタみたいになってる…。
内心、そんな感想を得た。視信さんは袋から鞘に収まった白黒2振りの小太刀と汚れているように見える深い緑色をしたポンチョの様な物2枚、小さめの黒いフード付きのパーカーと青いズボンと服、最後に鉄製に見える小手をそれぞれテーブルの上に置いていく。
「これでよしっと。それぞれ説明するね」
視信さんは小太刀を指差し説明し始めた。
「この小太刀は断矢君に。うちの試作品だけど小太刀としての能力は折り紙つきだよ。で、何故試作品かと言うと」そこで視信さんは言葉を切る。
「この小太刀、と言うよりもこの装備品全部がうちの試作品なんだけど、これ全部に一つ一つ違ったある“能力”が添付されてるんだよ」その言葉に親父が声を上げる。
「おい、視信。成功したのか?」
「うん。まだ量産は無理だけど単一(ワンオフ)ならそれなりの物が出来るよ」
「そんな物を断矢が貰ってもいいのか?」
「事が事だからね。あと、断矢君だけじゃなくて亜沙ちゃんにもだよ」
「で、説明に戻るけど。この小太刀には特殊な能力が添付されてる。それは“抜刀中に速度、納刀中には筋力が非常に上がる”って言うある種二つの能力が添付されてるんだ。ただ、デメリットとして“抜刀中は筋力が納刀中には速度が非常に落ちる”ってのがある」
「ま、断矢君の“能力”とこの」そこで視信さんは薄汚れた様な深い緑のポンチョみたいな物を指差した。
「“隠蔽の簑”があれば速度が落ちるのも意味はないかもしれないけどね」
「そうですか…一応俺の“能力”言ってもらっていいですか?ただの確認ですから」俺は視信さんにそう提案した。視信さんの“見た”ものと俺の“能力”が違っていると少しまずいと思ったからだ。
「うん。断矢君、君の“能力”は“障害”だよね?」“障害”……。視信さんは確かにそう言った。
「……視信さん、それは違いますよ。やっぱり違ってましたね」俺は言葉を紡ぐ。
「え、違うのかい?」視信さんはキョトンとしている。
「はい。俺の“能力”は《遮断》です。何ならもう1回見てください。今度はちゃんと見える筈です」俺は視信さんに対して“許可”をした。
「うん。それじゃぁ見せてもらおうかな……あ、ホントだね私の目にも《遮断》って見えたよ」
「やっぱり俺の“許可”が無いと他者に閲覧させることは出来ないですね」
「難儀な“能力”だね。私もこの“能力”で結構苦労したけど君の場合私の比じゃなさそうだね」
「…まぁ、昔のことですよ。今はもう……慣れました」
「そっか…ま、断矢君、君の能力が《遮断》ならこの“隠蔽の簑”の効果を最大限発揮できると思うよ」視信さんは“隠蔽の簑”と2振りの小太刀を俺に差し出した。
「ありがとうございます…」受け取ってテーブルに置いておく。
「おっと、小太刀の名前を言ってなかったね。二対一本の小太刀。名は『陰・陽』一応うちの技術で欠けたりしないし斬れ味が上がる事はあっても落ちることは無い事を保証しよう。大事に使ってね」
「陰陽……」小太刀の名前を噛みしめるように繰り返す。自分の身に刻み込むように。
「さてと、次は亜沙ちゃんだね」視信さんは亜沙ちゃんの方を向く。と言っても亜沙ちゃんは俺の横に居るのだが。
「亜沙ちゃんにも一応“隠蔽の簑”を渡しとくね」視信さんは亜沙ちゃんにもフード付きのマントの様な“隠蔽の簑”を渡す。亜沙ちゃんもそれを素直に受け取る。
視信さんは亜沙ちゃんが素直に受けったのを見て満足気に頷く。
「うん。それじゃぁ次だね」次は青っぽい服を差し出す。
「これは、うちの技術班が蜘蛛の糸を解析して作った物だよ。それだけで防弾チョッキになり得る代物だよ。これから戦場に行くかも知れないから向こうに行ったらできるだけ毎日着てね。同じ素材で着替えも複数用意してるから後で渡すね」
「視信さん…それ俺のは無いんですか?」同じく戦場に行くであろう、むしろ俺の方が率先して出せると思って一応聞いておく。
「ごめんね、断矢君。ちょうど今あるのが亜沙ちゃんみたいな幼児用しか無かったんだ出来次第君にも渡す予定だよ」
良かった…俺のもあるのか。と俺は安堵の息を付く。
「とりあえず次に行くね。この服自体には何の“能力”も添付されてないけど…」視信さんは黒っぽいフード付きのパーカーを手に取る。
「こっちも服と同じく蜘蛛の糸で出来てる。で、こっちには“身体強化”が添付されてる。亜沙ちゃんにはピッタリだと思うよ」視信さんはパーカーを亜沙ちゃんに差し出す。亜沙ちゃんも受け取る。
「で、最後にこれ」残った小手を手に取る視信さん。
「名前は“金剛の小手”名前の通り非常に硬いから滅多な事じゃ壊れないと思うよ。内側は柔らかい素材で造ってあるから付けた時に痛くもないと思うけど一応付けてみてアレなら調整するから」亜沙ちゃんは差し出された小手を手に取りぎこちなく手にはめる。
「だい…丈夫…」腕を振ったり手首を回したりして具合を確かめる亜沙ちゃん。
「なら良かった。私からの贈り物は以上だよ。まだ決まった訳じゃないけど頑張ってね」
「まぁ、多分駆り出されそうですけどね…」
「それじゃぁ、哲人あとは頼むよ」視信さんは親父に話を振った。
「あぁ、断矢、亜沙ちゃん、君たち2人には1週間私の下で訓練を積んでもらう」親父の言葉に衝撃を受ける。
理由は分かる。俺と亜沙ちゃんを死なせないためだと。
「お、親父。本気で言ってるのか?」
「無論本気だ。こんな下らない事でお前に死なれては困る。必要最低限の事だけでも体に叩き込んでから戦場に行かせたいと言う親心だ」
どんな親心だよ…そんな親心要らないよ…と言いたいのを我慢して飲み込む。
「……分かった。有り難く受けさせてもらうよ。亜沙ちゃんはどうする?」亜沙ちゃんの方を向く。
「たつや…お兄……ちゃんが…受け…るなら…」
俺が受けるから必然的に亜沙ちゃんも受けることになるな。
「話は決まったな。それでは明日から断矢には剣術、と言ってもナイフの扱いが主か。亜沙ちゃんには体術全般を教えよう。とりあえず今日は休んで明日に備えなさい」親父は立ち上がると扉を開けて部屋を出ていった。
「それじゃぁ夕食まで好きにしててね」視信さんも親父に続いて部屋を出ていった。
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親父達が出ていってから手持ち無沙汰になった俺は
黒い鞘の
こんな物貰っていいのか…と今更ながらに思いながら小太刀を鞘に収めながら、立ち上がり腰にクロスさせる様な形で装備する。
そして“隠蔽の簑”を羽織る。もちろんフードは被らない。その状態で腰に手を伸ばせば直ぐ柄に触れる。
…急に恥ずかしくなってきた……。傍から見たら完全にはしゃいでるみたいに見える…気がしてきた…。
手を元の位置に戻す。
「俺、少し寝るよ。夕食になったら言ってくれると助かる」少し寝る事にした。少し1人になりたかったのと色々言われて混乱しているので体が凄く重たい。
「分かった。なら私に付いてきて」月視が席を立ち、部屋を出るために扉に向かう。
「ありがとう」感謝の気持ちを言葉にして月視に付いていった。
そして案内された部屋には既に布団が敷かれていたので装備していた小太刀とマントを枕元に置いた俺は意識を手放し眠りについた。
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