第4話 提案と昼食


 大型スクリーンはニュースを映した。


 録画とかじゃなさそうだな。


「今朝未明ネウトゥラ自治区近郊で大規模なテロが起こりました。これによる…ガガガ…ガガガガガ……」


 今朝のテロについてのニュースをしていた映像に急にノイズが入り始めた。


「あーあー、音声入ってる?え?もう始まってる?!はぁ、まあいいか」映し出されている人物はため息をつき、頭をバリバリと掻く。


 誰だ?コイツ…


「どうもネウトゥラ自治区の皆さん。私は『マリフィツァ連邦』の長スペラガム・ユルグです。今日は皆さんに謝罪と提案の為にニュースに割り込ませて頂きました」画面内の男ースペルガム・ユルグーは頭を下げる。


 謝罪と提案?どういう事だ?


「まずは謝罪を。この度は中立国『ネウトゥラ自治区』を『シンス連合国』との戦争に巻き込んでしまい大変申し訳ない」ユルグは再度頭を下げる。


「我々『マリフィツァ連邦』は中立国である『ネウトゥラ自治区』を結果的にはこの戦争に巻き込んでしまいましたが、本心では巻き込みたくなかったと言う事を理解して頂きたい」


「そこで、提案なのですが巻き込んでしまったお詫びとして我々『マリフィツァ連邦』は『ネウトゥラ自治区』と同盟を結びたい」


「同盟と言っても名ばかりの同盟です。こちらが一方的にそちらを守ると言う内容のも。ただ、兵士として10人程をこちら軍隊に入れたいと言う条件付きですけどね」


「返事の期限は1週間後に私が『ネウトゥラ自治区』の長の家に参りますのでその時にお願いします。ただ、この同盟を破棄した場合でも我々はそちらに手を出さないと言うことは保証します。あと、引き抜きたい10人はこちらがランダムに決定しておりますので悪しからず。では色の良い答えをお待ちしております」


 ユルグは席を立ちその場から去ろうとする。だが、何かを思い出したように座り直す。


「おっと、言い忘れていましたね。先に選ばれた10人の名前を言っておきましょう。その方が選ばれた方々も心の準備をして貰わなければなりませんからね」


「虹咬 祝詞(ニジガミ ノリト)、大森 暁(オオモリ アカツキ)、子守 結衣(コモリ ユイ)、谷田 勇刀(ヤタ ユウト)、羽原 綴(ハバラ ツヅル)、麻宮 夜未(マミヤ ヨミ)、八頭 颯斗(ヤズ リュウト)、狼神 亜沙(オイガミ アサ)、緋野 断矢(ヒノ タツヤ)、佐野 姫乃(サノ ヒメノ)

以上10名は1週間の内に心の準備をしておいてくださいね。それでは皆さんまたお会いしましょう」その言葉と共にユルグのジャックは終わり、ニュースに戻った。


 ニュースキャスターは慌てながらその場の整理をしている。


そして、視信はテレビを消した。


 俺と亜沙ちゃんの表情は曇っていた。いや、ここに居る侍女さん以外の人の顔がと言った方が適切か。


「災難だね断矢君、亜沙ちゃん」と視信さんは俺と亜沙ちゃんを慰めた。


「まだ同盟を組むと決まった訳じゃありませんけどね…」俺は亜沙ちゃんの頭を撫でながら視信さんに答える。


「…ん」亜沙ちゃんは頭を撫でられてさっきまで曇っていた顔をほころばせた。


「そんな断矢君と亜沙ちゃんに私からプレゼントを上げよう」そう言うと視信さんは席を立ち麩を開けて何処かへ行ってしまった。


「はぁ…どうしよう…俺も亜沙ちゃんもタダの一般人なんだけどなぁ…」と愚痴る


「しょうがないと言えばそうだけど…確かに理不尽だよね」とこれまで沈黙していた月視が俺に答える。


「確かにそうだけど…受け入れるしかないんだろうなぁ…もし同盟を結んだらだけど…」


 うなだれていると“グゥゥ…”と腹がなった。


 そう言えば朝ごはん食べ損ねてた…。


 すると母さんがクスクスと笑っていた。


「母さん、笑うのはよしてくれよ…爆発音で朝ごはん食べ損ねてたんだから…」俺は恥ずかしさから顔を少し赤らめながら言い訳する。


すると母さんは笑いを収め笑みを深くして

「あらあら、断矢達は朝ごはん食べてなかったの?それなら少し早いけど昼ごはんにしましょうか」母さんは立ち上がり侍女さんに声をかけて一緒に客間を出ていった。


 客間にある掛け時計を見ると時刻は10時半を回っていた。


 なんとなく時計を眺めていると母さんと入れ違いに部屋に入ってきたのか目の前には大きな袋を持った視信さんが居た。


「おや?梓さんと2人が居ないと言うことはお昼にするのかな?」視信さんは袋を机に置きながら聞いてきた。


「らしいですよ」短く答えた。


「そうかそうか。ならこれを渡すのはその後が良いかな。なら、食堂に行こう。そっちの方が広くて食べやすいはずだからね」そう言うと、さっき置いた袋をまた持って視信さんは外に出ようとする。


視信さんが振り返る。

「さあ、行こう」


 俺は立ち上がり亜沙ちゃんの手を引き視信さんについて行った。その後に静華と親父と月視が付いてくる。俺達は視信さんの言う食堂に向かった。


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 食堂の間取りは大きめのテーブルが真ん中にあり、並んでいる椅子は7脚。間隔にはまだゆとりがある。部屋に入って左側奥には母さんと侍女さん2人が立っている。どうやらあそこが厨房のようだ。


「さ、適当に座りなさい」視信さんに促されて俺は一番右端の席に座る。左には亜沙ちゃん。その更に左に静華。向かいには右から月視、視信さん、親父、その隣には母さんの席と思われる空席の順番で座る。


 待つこと数分。


「お待たせー」母さんのそんな言葉と共にスペアリブの山がテーブルに置かれる。


 俺はそれを見て目をゴシゴシと擦る。恐る恐る目を開けるとそこには変わらずスペアリブがこれでもかと更に載せられている。


「母さん、これお昼に食べるようなものじゃない気がするのは気のせい?」


「あら?侍女さんたちが今日はこれですって言われたのがこれなのよ?お腹に優しく無いかもだけど食べてね」


「う、うん」承諾するしかない。母さんとそんな会話をしている内に皆がスペアリブに手を伸ばす。


 ふと横にいる亜沙ちゃんの方を見る。

 亜沙ちゃんの目の前には小さめのオムライスが置かれていた。


 流石に亜沙ちゃんにこれはツライってことかな〜。と、そんなふうに考えながら出をくれながらもスペアリブを手に取って食べ始める。


 どれくらい食べただろう。さっきまで山のようにあったスペアリブが残り少しとなった頃ではあった。亜沙ちゃんの方から視線を感じた。その時俺は骨だけになったスペアリブを捨てようと骨の入った皿に手を伸ばそうとしていた。


 亜沙ちゃんの方に視線を移す。そこには、物欲しそうな目で俺の持っている骨を見ている亜沙ちゃんの姿があった。


「亜沙ちゃん、これが欲しいの?」手に持っている骨を振って示す。


 すると亜沙ちゃんはコクンと頭を縦に振った。


「えーと、こっちにある肉の付いた方じゃなくて、こっちの骨だけになった方が欲しいの?」左手でまだ肉のついているものを、右手で食べ終えた骨をそれぞれ示す。


「……ホネの方が…欲しい…」と上目遣いに言った。


 うぅ…断りずらい…。上目遣いは反則だと思う…。


「ほんとにこっちで良いの?」再度確認をとるように骨を示す。


「そっち…が…良い…」と亜沙ちゃんは目を輝かせながら言った。


「わかったよ。はい」観念して亜沙ちゃんに骨を上げた。


「ありが…とう…」亜沙ちゃんは嬉しそうに骨を受け取ってしゃぶり始めた。そんな亜沙ちゃんの頭を撫でる。すると、頭にさっきまでは無かった狼のような耳が生えていた。


「え、ちょっと亜沙ちゃん、頭のそれは?」1回見たことあるものだが、親父達は知らないし俺もそれが何なのかを知らない。


「…?」亜沙ちゃんは骨を齧りながら首を傾げる。


「あーそれならその娘の“能力”だよ」と事もあろうに視信さんが答えた。


「え?何で視信さんが…」戸惑う俺。


 スペアリブを飲み込んだ視信さんは説明し始めた。

「行ってなかったね。私の“能力”は《見聞》でね、他者の“能力”が分かるんだよ。で、その娘の“能力”は《獣化》。多分、骨をしゃぶってたから耳と尻尾が生えたんだね」そしてまたスペアリブに手を伸ばす視信さん。


 亜沙ちゃんはと言うとバリバリと骨を食べていた。


「と言うことは俺の“能力”も分かってますか?」興味本位で視信さんに聞いてみた。


「え?断矢君のかい?うっすらとなら見えたよ。完全にでは無かったけどね」


「そうですか…」聞くんじゃなかったかなぁと後悔しながらスペアリブを口に詰める。


 そんな会話をしながら昼食の時間は過ぎていった。


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 今は昼食が終わり片付けをしている。


 片付けと言っても骨は半分以上亜沙ちゃんが食べてしまったから残りの骨と皿を洗って元の場所に戻してテーブルを拭くぐらいしかやることは無いのだが。


 俺は今テーブルを拭いている。結構油が飛んでいたので少し念入りに拭いておく。


 ちょうどテーブルを拭き終わったくらいのタイミングで視信さんに呼ばれた。


「断矢君、今暇だよね?ならちょっと渡したい物があるから亜沙ちゃんを呼んで来てくれるかな?」と、昼食後に静華に連れていかれた亜沙ちゃんを呼んで来いと頼まれた。


 亜沙ちゃんの狼のような耳と尻尾は昼食が終わるといつの間にか無くなっていた。どう言う法則性で現れるんだろう。と考えながら食堂を出てある部屋に向かう。


 部屋の前で扉をノックする。女の子が居る部屋にー例えそれが妹だとしてもー不用心に入る様な阿呆ではない。


「静華ー今視信さんに亜沙ちゃん呼んで来いって言われたんだが、入って大丈夫か?」


「あ、兄さんですか、入って大丈夫ですよ」


 静華からの許可が出たので部屋の扉を開けて中に入る。


 そこには和服に袖を通した妹の静華とさっきまでの黒っぽいパーカーから猫耳の付いたフード付きのパーカーに着替えた亜沙ちゃんが居た。


「……静華は分かるけど、亜沙ちゃんの格好はどうなんだよ静華…」思わずそんな感想を口にする。


「まぁまぁ、いいじゃないですか。別に亜沙ちゃんも嫌がってるわけじゃないんですから。ね、亜沙ちゃん?」と静華はパーカー姿の亜沙ちゃんの頭をなでる。


「うん…こっちの…方が…落ち着く」亜沙ちゃんは静華に撫でられるままに答える。


 少しの思案。

「亜沙ちゃんが納得してるならいいかー」俺は頭をボリボリと掻くきながら結論した。


「とりあえず行こうか亜沙ちゃん」俺は亜沙ちゃんに手を差し出す。


「さ、亜沙ちゃん、行きましょう?」静華も亜沙ちゃんに手を差し出す。


 亜沙ちゃんは恥ずかしそうに頬を朱に染めなから

「…うん」と俺と静華の手を握った。


 俺と静華は顔を見合わせ「ふふっ」と微笑むと、三人仲良く食堂に向かって歩き出した。

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