第3話 到着と事実
アサちゃんが着替えている間に死んでいる二人の男の近くに落ちている猟銃のような形状の銃を1丁拾っておく。
2人分ある筈だが、もう一方は銃の真ん中当たりで二つに折れていたのでそのまま放置する。
更に男の身体を嫌々ながらも探り予備弾倉とナイフも貰っておく。
「これがあれば一応は対抗策にはなるかなぁ……ま、銃の扱いなんてからっきしだから使えないとして……ナイフで防衛するしかないか…何事もなく月視の家に着けばそれが1番良いんだけど…」ブツブツと独り言を呟きながらナイフをケースにいれ懐に入れ、猟銃もどきは紐が付いていたので肩にかけ月視達のいる方に戻る。
「月視ー?一応これ渡しとくからな〜」月視に猟銃もどきと予備弾倉を渡す。
「断矢…これどこで手に入れてきたの?」
「あーさっきの男達の死体漁ってきた」頭を掻きながら月見に伝える。
月視の顔が引き攣って見えたのは錯覚だと思いたい…
「俺達防衛の為の武器とかないだろ?」
「うん…それはそうだけどね…」月視は見るからに嫌そうな顔をしている。
「しょーがないだろ……割り切れよ…俺も嫌なんだからさ」
「わかった…でも私達銃の扱い方なんで知らないよね…」
「それはそうだけどないよりはマシだろ?」
「…そうだね!無いよりはマシだよね!」月視は気持ちを切り替えるためかあからさまに声の調子を明るくした。
「…無理はするなよ。最悪俺が何とかするからさ…」そう言って月視の頭を撫でる。
「…分かった。無理はしないよ」
月視と会話をしているうちに静華とアサちゃんが物陰から出てきた。
アサちゃんは全体的に黒っぽい格好をしていた。上着は黒のフード付きトレーナーに下は短めのジーンズを着ていた。
「静華、よくそんなもの持ってたな…」
俺は感心したように言った。
「ジーンズは少し切ったりしたけどトレーナーはそこのデパートから拝借しました。大丈夫ですよカメラとかは壊れてるの確認してますから」
……窃盗したのね……ソレ…と内心ツッコミながらもこれで準備は出来た。
「よし、それじゃ月視の家に向かおうか」
「その前に断矢、親さんに連絡しなくていいの?今まで言わなかったけどさ」
「…した方が良いかな?」
「今更な感じはしますがした方が良いと思いますよ兄さん」
「…分かった」そう言って俺は目の前にスクリーンを展開する。
リストをスクロールして親の名前を探し、ボイスチャットの設定を変更する。
「これで良いかな…」コールすること数回応答があった。
「あ、親父?」
『む、断矢か。どうした?』
繋がったことに安堵の息をつく。
とりあえず軽くこちらの現状を説明しないとな。
「こっちでテロみたいな事が起こって家に居るのも危ないと思って今、昨日話した露郷の家に向かってる」
『そうか。ならそのまま露郷さんの家に行きなさい』
「あ、あぁ、分かった。そう言えば親父達は大丈夫だったの?」
『あぁ、大丈夫だ。だから早く露郷さんの家に行きなさい。そこはまだ危ない筈だからな』
「分かった。それじゃ」
『またな』
何処か引っかかる事を残し親父とのボイスチャットは終わった。デバイスを閉じる。
「OK、とりあえず早く露郷さんの家に行けとさ」簡単に親父との会話を報告する。
「なら早く行きましょうか。ここからならそう時間もかからないから」そう言って月視は歩き出した。
どうやら月視は俺が親父と連絡をとっている間に場所の確認をしてくれていたようだ。
月視に付いていく形で後ろにアサちゃん、静華、俺の順で歩き出した。
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歩くこと約5分
歩き始めてから武装した人と遭遇することもなく比較的安全に移動することが出来た。
だいぶ余裕が出てきた俺は辺りを見回す。
だいぶ周りの様子も変わってきた。さっきまでは廃墟の様であった町並みが見慣れた綺麗な町並みに戻ってきた。
「見えてきたよ。あれが私の家よ」月視は指を指し場所を示す。
そこには平屋建ての伝統的な日本家屋があった。
思ったより大きいなぁ…
俺の頭には率直な感想が浮かんだ。
「あれが月視さんの家ですか…いいお屋敷ですね」静華も俺と同じような事を口した。
「ふふ、あと少しで着くか頑張って行きましょう」月視は何故か誇らしげにそう言って歩みを速める。
ちなみにアサちゃんは俺におぶられてスウスウと寝息を立てて寝ている。歩き始めた頃は静華と手を繋いで自分で歩いていたが途中からゆっくりとこっくりこっくり船を漕ぎ始めたから俺がおんぶする事にしたのだ。
俺はスクリーンを展開ひ周囲に人が居ないか確認する。リストには静華、月視にアサちゃんの3人(俺の名前は案の定ない)の他に苗字に露郷と付く名前ーこれは恐らく月視の家族だと思われるーそして見知った名前を見つけ思わず「ん?」と疑問符が飛ぶ。
「どうしました兄さん?」と静華がこちらに振り向き呼びかける。その声に反応してか月視が歩みを止める。
「あ、いやー何となくデバイス開いて誰が居るのか確認したら親父と母さんの名前なあったからさ…」月視と静華もデバイスを操作する様な動作をとる。
「「あ、」」二人揃ってそんな間抜けな声と共に顔を上げる。
俺達は顔を見合わせる。
「……月視の家に行けば全部分かるかも知れないし、さっさと行こうか」俺は頭をバリバリと掻きながら再び歩き出す。
それに続くように月視と静華が俺を追い抜いていく。
「そうね。さっさと行きましょう」
「はい。そうしましょう」
そして俺達はようやく月視の家に到着した。
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月視がガラガラと家の門を開く。すると
「「お待ちしておりました。月視様」」と和装をした二人の侍女らしき人達がお辞儀をしていた。
月視が見るからに嫌そうな顔をする。
「顔を上げてちょうだい。二人共私がそういうの嫌いなの知ってるでしょ?」
「「すいません、ですがこれは義務でありますので」」二人共顔を上げる。
「「それでそちらの方が朝言っておられた緋野 断矢様とその妹の緋野 静華様ですね?」」
「ええ、そうよ。で、断矢におんぶされている子はここに来るまでに保護した狼神 亜沙ちゃん」
「「ようこそお越しくださいました。断矢様。静華様」」二人はこちらにも頭を下げてくる。
やりにくいなぁ…。慣れてないからなのかなぁ…。
「「月視様、到着早々すいませんが、お父様がお呼びです。直ぐに書斎へお願いします」」
「そんな事だろうと思ったわ。それじゃあ、断矢と静華さんと亜沙ちゃんを客間にお願いね」そう言うと月視は肩にかけていた猟銃もどきを侍女さんに渡すと足早に家の中に入っていった。
二人は月視が家に入っていくのを見送ってからこちらに向き直り
「「それでは客間にご案内致します。付いてきてください」」と、歩き始めた。
「お、お願いします…」慣れてないからか俺達は歯切れ悪く答えながら、二人の後を歩いて月視の家に入った。
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俺と静華とアサちゃんは家の中に入り、少し歩くと二人の侍女らしき人が「「ここでお待ちください」」とある部屋を示される。
俺が部屋の麩を開くとそこには俺と静華の父ー緋野 哲人ーと母ー緋野 梓ーが座っていた。
「む、来たか断矢に静華」親父は微笑んで俺達を迎え入れた。
「あら、そんなに驚かないのね」母さんもいつも通り微笑んでいた。
俺は頭をバリバリと掻く。
「ここに来る前にデバイスを開いて名前を確認してたから、近くにいるのは分かってたけどまさか月視の家にいるとは思わなかったよ…」
「ふむ…そうか」
親父と母さんの前の席に座る。隣に静華も座る。家に入る前に起こしたアサちゃんは眠い目をこすりながら俺の太ももに座っている…。
「と言うか…何で親父と母さんがここに居るんだよ…」この部屋に入ってから気になっていたことを口にする。
「む?静華から聞いていないか?」
「俺が聞いたのは昔の知人に呼ばれたとしか…まさか露郷さんがそうなのか?」
「ああ、そうだ」
親父は大仰に頷く。
俺はため息をつく。
「認めるのね…何処で知り合ったんだよ…」
「断矢達には言ってなかったな」
断矢達は「何を?」と言ったふうに首をかしげる。
「父さんの仕事についてだよ」
断矢と静華はハッとした顔をした。アサちゃんはまだ何がなんだか分かっていないように首をかしげたままだった。
確かに今まで親父は自分の仕事について何度聞いても教えてくれなかった。
「で、親父の仕事ってなんなんだよ?」
「父さんは士官学校で教官をしているんだ」
俺と静華は親父の仕事のことについてピンと来なかった。
だが、親父が軍の人間だと言うことぐらいは分かった。
「と、とりあえず親父が軍の人間だと言うことは分かったよ…でも、それで何で親父と露郷さんとが知り合いになるかが分からない」
「それはな、断矢…」
親父が俺の問について答えようとした時、部屋の麩が開く。
「そこからは私が話そう」
そんな言葉と共に和服を着た身長165cmぐらいの小太りなおじさんが出てきた。その人の後ろにはおじさんと同じく和服を着た月視が付いてきていた。
「申し遅れたな。私は月視の父親の露郷視信(ツユサトシノブ)だ
露郷視信…何処かで聞いたことがあるような…と何故か頭の中で引っかかる。
「職業は露郷重工の代表取締役社長だよ」
露郷重工…主に鉄鋼業や機械製造業をしている会社と言う認識が一般的だ。
「あっ!」と思わず声が出た。
月視の時は何も引っかからなかったがおじさん改め視信さんが出てきてから引っかかると思った理由が分かった。
すると、さっきまでの疑問がスルスルと解けていく。
「断矢くんは分かったようだね。私は哲人のパトロンだよ。いや、“哲人”のではないな。“哲人の所属している軍”のパトロンと言った方が正しいかな」
そう。露郷重工は裏では兵器の生産をしていたのだ。
静も一瞬驚いた様な顔をしたが、直ぐに納得したと言うような顔になる。どうやら静華も答えに到たったようだ。
「と言うことは露郷重工は銃やミサイルと言った兵器を生産してるって事ですか?」
「そうなるね。実際“そちら”の方が儲かっているよ」
「そう…ですか…」俺は肩を落とす。
「肩を落とす事じゃないよ断矢くん。露郷重工は国の許可を得て兵器の生産をしているからね。一般的な論理感から離れていると言うのは私達も分かっているよ。んーこればっかりは見てもらった方が速そうだね」
視信さんは手元でスクリーンを操作するような動作をする。すると客間の窓側に巨大なスクリーンが出現し映像を投影し始めた。
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