第2話 獣の幼女


 爆発音はまだ続いている。


 爆発音で3人は放心状態にあった。

 

 いち早く放心状態から脱した断矢は2人に告げる。

「静華、月視、2人はそこにいてくれ。俺は窓から様子を見る」

静華と月視は俺の提案に頷く。


 窓の近くまで歩く。


 断矢は慎重にカーテンを開けた。


 窓の外を見て俺はあまりの凄惨さに言葉を失った。


 さっきまで並んでいたビル群は既に瓦礫に変わり、人々は逃げ惑っていた。そして至るところから火炎を纏った煙がもうもうと上がってる。


「なんだよ…これ…」俺は呆然と立ち尽くす。


 数分後やっと思考が追い付いてきた。

「ここも時期あぁなるかもしれないな…」そう思った俺は静華と月視に告げた。

「外はもう廃墟みたいになってる。ここも時期同じことになるかもしれない…ともかく逃げるぞ!」


 またも爆発音。それには人々の悲鳴も混じっていた。


 その音で察したのか月視と静華は


「わかった。とりあえずこの場に居たら危なそうだね」


「兄さん、少し待ってください。非常食や貴重品だけでも持って出ます」


「わかった。1分で支度してくれ。1分後玄関に集合という事で」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 1分後俺たち3人は玄関に集まった。


「よし、行くぞ」行く宛などないがここにいるよりはマシだ。


「ええ」「はい兄さん」と返事があるのを確認して玄関の扉を開く。


 扉を開けるとそこには逃げ惑う人々が居た。人々は悲鳴を上げ状況が呑み込めないと言ったふうだ。


 3人はその流れに任せて階段のある位置まで行く。

そこから階段を駆け下り、外に出る。

外でも、いや外だからこそか。

人々は玄関を出た時と同様な様子だった。


「さてと、外に出たは良いがどうする?」俺は2人に意見を求める。


「そうね、とりあえず私の家に行きましょう」月視が前置きをして呟く。


「ん?お前の家にか?」


「ええ、そうよ」月視は何か策があると言った顔で頷く。


「わかった。どのみち行く宛もないんだ。提案があるならそれに乗ろう」と、月視の意見に乗ることになった。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 月視を先頭に並んで歩く。


 道の所々にはビルだったものの瓦礫が横たわっている。


 歩き出す頃には爆発音は無くなっていた。

だが、時折ダダダダッ!という銃声が鳴り響いている。


 月視は目をつぶって歩いている。

銃を持った人を警戒しての事だそうだ。


俺は月視が瓦礫で転ばないように手を取り、月視が指示する方向に進む。


静華は黙って付いて来てくれている。


 歩くこと20分…ビルだったものを曲がろうとしたところで月見が止まった。


「止まって…静かにしててね」


どうやら月視の“眼”に引っかかる物があるようだ。


「ごめんけど断矢、様子を見てくれるかな?断矢なら見つからないと思うから」


「わかった。それくらいならできる」


 俺は月見に言われた通りに様子を伺う為にビルの角から顔を出す。


 そこには銃口を向けられる座っている淡い蒼色がかった銀髪を持った幼女が居た。


「おいおい…まじかよ…」そんな事を呟きながら俺は顔を引っ込めた。


「どうだった?」


「幼女に銃口向けてるのが2人居る」


「幼女だったかー、幼女にそれはキツイなぁ…」


「あぁ、だから出来れば助けてやりたいんだが…どうするかな…」あんな小さい子も救えない様じゃ男が廃るってもんだろ?


「ん、それは私も同意だけど…手段がね…」


「手段かぁ…」あの幼女は助けたいが、確かに手段がない。


 そうこうしているうちに銃声が鳴り響く。


 月視と顔を見合わせる。


「つ、月視…今のって…」


「え、ええ多分そうだと思う…」


 俺は恐る恐るまたビルだったものの影から様子を伺う。


「え…?」声とともに口を手で抑える。そうしなければ今にも吐きそうな凄惨な光景が広がっていた。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 そこには返り血を浴びて着ている服が真っ赤に染まっている幼女と腹の辺り内臓が零れ、そこから大量の血を流して倒れているさっきまで幼女に銃口を向けていた男2人だった。


 そんな光景を口を抑えながらふと気づく。


(あれ?あの娘あんなもの付いてたっけ?)


 その幼女にはさっきまでは無かったであろう狼を思わせる耳と尻尾が付いていた。


「断矢ーどうしたの?口なんか抑えて」

 月視が俺を心配したのかそんな事を口にしながらこちらに近づいてくる。


「ちょっと待て月視…。これは見ない方が良い……」月視の方を振り返る。


「わ、分かった…でもどうなってるかだけ教えて」


「あ、あー言ってなかったな…銃口向けてた男2人が幼女に殺されてる」


「え?幼女の方じゃなくて?」


「うん。幼女じゃなくて銃口向けてた方が死んでる」


「……忠告してもらってて悪いけど断矢見せてくれる?」


「……分かった」俺は月視の為に道を開ける。

 月視は少し身を乗り出し様子を伺う。そしてその光景を見て口を手で抑える。


「……断矢が見せたがらないのが分かった……あっ、幼女と目が合っちゃった…こっちに来るけど、どうする?」


「え?目が合ったぁ?!」


「うん…ごめんね…注意はしてたんだけどね……」


「ならコソコソしてもしょうがないから出ていこうか…」


「そうだね。私も賛成ー」


「おーい静華ー?行くぞー」


「あ、はーい!今行きます」


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 なんでわたしは銃をむけられているの?

 どうしてどうしてどうしてどうしてどうして…………?


「おい、どうする?見つけた人間は皆殺しって命令だったけど流石に幼女を殺すのは…俺は、はばかられるんだが……」


「その気持ちは分からんでもないが仕方ないだろ」


 そして2人の男の内の人が幼女に銃口を向ける。


 わたしは…死ぬの……?死ぬのは……イヤ…イヤイヤイヤ…怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い怖い………


「それじゃあな嬢ちゃん。捕まったのが運の尽きだったと思って死んでくれや」


 男は銃の引きがねに指をかける


 死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない死にたくない…死にたく……ないっ!


 その時、幼女の頭の中で“ブチッ!!”と音を立てて何かが千切れた……。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 俺は幼女に銃口を向けていた。


(はぁ、何が面白くて幼女なんて殺さないと行けないんだよ……)俺はそんな事を考えながら引きがねを引き絞ろうとした。しかし……


「……え?」俺は引きがねを引き絞る事が出来なかった。


 引き絞る前に俺の腹がかっさばかれていたからだ。


 裂かれた腹からは内臓だろうか…よく分からないものが血と一緒に吐き出される。


 目の前で腹を裂かれ、内臓と血が飛び出すのを目撃したもう1人の男は


「うわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ⁉︎」

 引きがねを引き絞るが、2回の銃声が響いた時には既に相方と同様に腹を裂かれ息絶えていた……。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 気がついたら、わたしは目の前の男の人のお腹を裂いていました。手を見るとそこにはべっとりと血が付いています。更に所々肉片も付いていました。でも、なぜか気を失うことはありませんでした。むしろ美味しそうです。当たりを見回すとビルの影から顔を出していた女の人と目が合いました。

 

 女の人はすぐにビルの影に隠れました。


「……?」わたしはその女の人がいた方を歩き出しました。


 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄

 俺の目の前には身体を血でぐっしょり濡らした幼女。背後には妹の静華と月視。


「お嬢ちゃん?その、大丈夫?」ある意味助けてもらったも同義の幼女に俺はそんな事を聞いた。


「……うん…だい…じょうぶ?」幼女は首をかしげながら舌足らずな言葉で答えた。


「えーと…お兄ちゃん達はお嬢ちゃんをどうこうしたりはしないけど、ここにいるのは危ないから一緒に来てくれるかな?」


 こんな所に幼女を1人置いていくのは危ない……よな?


 幼女は首をかしげながら少しの間考えているのか間を開け


「…わかっ…た?」と言って断矢の足に飛びついた。


幼女は断矢の足に飛びつき足に顔を埋めダムが決壊したかのように泣き始めた。


「え…えーと?と、とりあえず一緒に来てくれるっぽいよ……ね?」と幼女の頭を優しく撫でながら背後の月視と静華に言おうとすると……月視からは冷たい目線を返され、静華からは慈しみの目を向けられた。


「断矢、足が真っ赤になっていってるけど、大丈夫?」


 (目線が冷たいままに心配されても困るんですけど月視さん?!)


「兄さん。とりあえずその娘を足から離して私に下さい。私が面倒見ますから」


 静華の意見に従おうと思い足から幼女を離そうとしたが俺の足をがっちりホールドしているのか一向に離れる気配がない。


その娘を足から離そうと優しく格闘すること数分。


「静華…ごめん…無理……」俺は肩で息をしながら静華に謝った。


「……分かりました。それじゃあその娘のことは兄さんが面倒見てあげてくださいね?」


「…分かりました…俺が面倒見ます……」


「えーとごめん、名前聞いてなかったね。教えてくれるかな?」頭を撫でながら聞く。


 幼女は顔を上げ俺の顔を見た。

「…狼神(オイガミ)亜沙(アサ)」

 幼女ーアサーはハッキリと答えた。


「アサちゃんね。これから宜しくねアサちゃ

ん」

 するとアサは俺の足から離れてペコリとお辞儀をした。


「アサちゃん、とりあえず着替えない?流石にその格好だと色々まずいから…」

 アサちゃんは自分の着ている服に目を落とした。

 アサちゃんは自分の着ている服の状態が分かったのか「……わかっ…た」と答えた。

 

 俺は安堵の息をつく。

「良かった。静華ーごめんけど、アサちゃんの着替え手伝ってやってくれないか?俺がやるのはちょっと……ね」


「分かってますよ兄さん。アサちゃんお姉ちゃんと一緒にこっちに来てくれるかな?」


「アサちゃん、あの娘は俺の妹だから大丈夫だよ?」そう言って俺はアサちゃんの頭を優しく撫でる。


「…うん」アサちゃんは静華の方にかけて行った。

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