Section45 本の音

 「ページを捲る音が好き」


 彼女はそう言って、僕が読んでいる本に耳を近づける。


 「ちょっと、読みづらいって」


 「いいじゃない。ここで静かにしているだけなのだもの」


 僕の右手のすぐそばには彼女の顔があって、僕は本に集中することが出来ないでいた。


 「ごめん。やっぱり読みづらいんだよ」


 そう言うのに、彼女はそこから離れようとはせずに、黙ったまま、僕がページを捲る音を静かに聞いていた。


 「お願い。あともう少しだけ」


 しょうがない、そう言うから。僕は出来る限り本に意識を寄せて、物語に集中しようとした。


 それなのに、


 僕に印象付けられるのは、


 そのページを捲る音だけだった。


■古びた町の本屋さん

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