Section42 ベージュを愛して

あの人はベージュを愛した。


 ただそればかりの色を纏い、ただそればかりの色を持った。


 家の中はベージュに染まり、おそらく彼の心までもが、そのベージュに染められているのではないかと思う。


 あの人にベージュはとてもよく似合った。


 あの人がベージュでない時を、私は知らないけれど、それは私に”似合う”という印象を強く刻んで、またその他の色が”似合わない”とも思わせた。


 あの人はベージュとして生まれ、ベージュとして生きているのかもしれない。


 あの人は、今日もベージュを纏い、ベージュに染まった。


 あの人の心は、あまりにも肌に馴染んで、私には見えそうもないどこかにあるのだった。


■古びた町の本屋さん

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