Section35 雨と混じった、甘い匂い

 雨が窓を叩く音でうっすらと目を開けた。


 灰色の空がカーテンの隙間から、うっすらと見える。内側から見えるのはゆっくりと伝う雨の水滴だった。


 優しい肌寒さを感じる。


 きっと外はこの部屋の中よりも、もっともっと冷たいのだろう。


 だけど、目を覚ました時から、しきりに私の鼻をつつくのは、随分と甘い匂いだった。


 「ユキー!もう起きたのー?もう、日曜だからっていつまでも寝てないの!」


 階下からお母さんの声が聞こえた。


 起きてるよ、と思いつつも、重い体はなかなか起き上がろうとしてくれない。


 「ほら!アップルパイ作ったから、早く起きなさいー!」


 ああ、アップルパイの匂いだったんだ、と私は納得して、その匂いにつられるようにして起き上がる。


 窓を開けると、雨の音が耳に入り込んできて、冷たい空気が私の体を包み込む。


 「……雨の匂い」


 湿った匂いと、アップルパイの甘い匂いが混じり合って、私の鼻を通り抜ける。


 日曜日の朝の、緩い空気の中で。


■古びた町の本屋さん

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