Section35 雨と混じった、甘い匂い
雨が窓を叩く音でうっすらと目を開けた。
灰色の空がカーテンの隙間から、うっすらと見える。内側から見えるのはゆっくりと伝う雨の水滴だった。
優しい肌寒さを感じる。
きっと外はこの部屋の中よりも、もっともっと冷たいのだろう。
だけど、目を覚ました時から、しきりに私の鼻をつつくのは、随分と甘い匂いだった。
「ユキー!もう起きたのー?もう、日曜だからっていつまでも寝てないの!」
階下からお母さんの声が聞こえた。
起きてるよ、と思いつつも、重い体はなかなか起き上がろうとしてくれない。
「ほら!アップルパイ作ったから、早く起きなさいー!」
ああ、アップルパイの匂いだったんだ、と私は納得して、その匂いにつられるようにして起き上がる。
窓を開けると、雨の音が耳に入り込んできて、冷たい空気が私の体を包み込む。
「……雨の匂い」
湿った匂いと、アップルパイの甘い匂いが混じり合って、私の鼻を通り抜ける。
日曜日の朝の、緩い空気の中で。
■古びた町の本屋さん
http://furumachi.link
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録(無料)
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます