Section34 自分として

 「自分を見つめ直してみたらいいよ」


 友人にそんなことを言われて、僕は早朝の中にいる。


 なぜそんなことを言われたのか、僕には察しが付かないでいた。


 数年付き合った女性と別れたからか、はたまた、会社の上司と揉めて、結果仕事を辞めることになってしまったからか。……いや、飼い猫のナツメが死んでしまったからなのかもしれない。


 そりゃあ、それらのことはそれなりにしんどかったし、僕の心をこれでもかというくらいに痛めつけもした。


 だけど、それらの事柄は僕にはどうしても回避出来ないことだったのだ。


 しょうがない、と完全に割り切れはしないのだけど、なんとなくでも理解することくらいは出来た。


 そんな僕が何を見つめ直したらいいというのだろうか。


 友人は、何を思って僕にそんなことを言ったのだろうか。


 それは分かりそうにない……。


 分かりそうにないのだけど、僕がどんな辛い心情であったところで、太陽は当たり前のように昇ってくる。


 徐々に明るくなる空を見ながら、僕という存在は、世界にとってそれくらい小さなものなのだ。


 ただ、そう実感するばかりで、空虚な心はただそこに佇むばかりだった。


■古びた町の本屋さん

http://furumachi.link

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る