Section4 一瞬の勇気

 傑(すぐる)は、なんの躊躇いもなく、少し高いその場所から水の中に飛び込んでいった。


 「おーい!お前も早く来いよー!」


 少し離れた場所から届く傑の声に、僕は足を震わせて口を閉ざしたままだ。


 「大丈夫だって!怖いのはその飛び込む一瞬だけなんだから!そこから一歩だけ踏み出しちゃえば、あとは流れの赴くままなんだからさー!」


 傑は、僕を急かすように言葉を投げるけど、


 僕はこの場所から一歩だって動けそうになかったのだから、どうしようもない。


 〝その一瞬の勇気?〟


 それさえあれば、人間怖いものなんてなくなるんじゃないだろうか。


 ただ僕はそう思うばかりで、


 少し高いその場所から、傑を見つめることしかできなかったのだ。


  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る