56
六月一日
「見事だったわ、探偵さん」
いつかの様に、喫茶店の一席、目の前で薄く笑みを浮かべる少女――簓木鏡花に晨夜は無骨に答えた。
「お前等のお膳立てだ」
「あら、貴方のお膳立てでもあるわよ?」
しかし面白かったわ、と鏡花は言う。
「私はてっきり〝四肢狩人〟にはヌエを当てて終わらせるのかと思ったのに、わざわざ相手の『理』の否定なんて面倒な方法を持ち出すなんて――思ったよりも優しい人ね」
「非効率である事は知っている。だが夜鳥はあの方法でないと納得しない、それだけだ」
晨夜は、無駄だと判っていながら夜鳥の為に『解体』という手法を用いている。この徹底した効率しか見ない探偵からすると、それは例外的だ。
「それが優しいって言ってるのよ。だってヌエの事を考えて、貴方は手間の掛かる手段を取った。本当は簡単に殺す事が出来た筈なのに」
晨夜はコーヒーを一口飲んで、何も答えない。
「その為に私に連絡を取って、速水健司の死体の腕を寄越せだの、麻薬が欲しいから寄越せだの要求してきて、随分と頑張ったみたいじゃない?」
「必要だっただけだ」
「不要だった筈よ」
沈黙は肯定也――とは言うが、鏡花の目の前で黙する男に関して言えば、それは余り関係無い様だ。
「まぁ、私としてはこの結末の形には何も言わないわ。それがヌエ好みだったんでしょうし、私は私でカードの一枚に貴方を加える事が出来ただけで十分よ」
「何を白々しい――
そんなまさか! と、鏡花は晨夜に言われた通りの白々しさで大仰にする。
「ただの偶然よ。お互いに身動きが出来なくなったのは、たまたまよ。だから〝四肢狩人〟の半分を貴方に任せたのよ?」
「
「
晨夜は無表情に言い、鏡花は微笑いながら言う。
「何にしろ、お互いに満足の行く結果でしょう? 双方の希望を過不足無く叶える事が出来て、不満は無い――平和的解決よ」
そこまで彼女が言うと、携帯電話が着信を告げた。電話ではなくメールだったらしく、少し携帯電話を操作していると、彼女は晨夜に向き直る。
「ごめんなさい。ちょっと用事が出来ちゃったみたい。これで失礼するわ」
鏡花が一方的に席を立ち去ろうとすると、その直前に晨夜は彼女の顔を見ずに言った。
「お前程平和の似合わない奴は居ない」
「――有り難う、嬉しい言葉よ」
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