#6/Limbs Hunter‐四肢狩人(五月二十三日~六月一日)
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私達の見ている死とは、日光を映している月光に過ぎない。
五月二十三日
「ところで〝四肢狩人〟が僕に何の用なのかな?」
「何って、言ったじゃないか、お詫びだって」
「わざわざ正体を明かすリスクに見合っていない気がしてね。目的は他にあるんだろう」
図星だったのか、まぁそうだね、と〝四肢狩人〟は苦笑しながらこちらに近付き、
「――君を殺す事だよ」
次の瞬間には、僕の背後に立っていた。
絶句する。
僕は完全に彼の術中に嵌っているらしい。少し声がくぐもって聞こえるから背を向けているのか、まるで僕を透り抜けたかの様な演出だ。だが違う、別に彼が瞬間移動した訳でも無ければ、時間を止めたり吹っ飛ばしたりしたのでもない。
〝四肢狩人〟の犯行方法から考えると単純に、彼は自身の移動を知覚させなかった。恐らく、今の僕は彼が移動し終わるまで脳の活動に虚でも作られたのだろう。
彼がその気になれば、相手に気付かれずに首を絞めて、苦しいとすら思わせずに殺す事が出来る筈だ。
「……っ、だったら、最初からそうすればいいじゃないか」
「ボクにも事情があってね。出来れば邪魔者の君にはすぐ居なくなって欲しいけど、今は高校に戻らなくちゃいけないんだ」
事情……そうか、警察の事情聴取か。新聞部に所属しているなら、自分一人だけ居ない事になると何かと面倒なんだろう。
「理由はあともう一つ」
そう言って彼は、今度は僕の前に一瞬で移動したかの様に見せた。
……完全に遊ばれている。力を見せ付けられている。
「速水君はボクが保護したから、長く放っておけなくてね」
「保護だって? 何の為に」
「別に? 助けが要りそうだったから」
嘘だな。追われている者を殺人犯が庇う意味が無い。況してや、二人とも同じ者達に追われているなら。
協力でもしたのか? いや、違うな。〝四肢狩人〟は自分のベクターで絶対に捕まらないという自信がある。足手纏いになるだけの速水健司と行動するメリットが見当たらない……精々、囮に使う事が出来る程度だろう。
となると、彼が正体を明かしたのは僕に対する餌か。
彼は
だから、先手を取られる前に奇襲を仕掛けに来たんだろう。
それに僕は〝四肢狩人〟を追わざるを得ない。加えて速水健司を押さえられているから、彼の言う通りに半ば動かざるを得なくなってもいる。
今は時間が無いから仕方無いけど、迎え撃って殺してやる――そういう事だろうか。
考えたところで無駄。僕には読唇は出来ても読心は出来ない。
今、僕が訊かなければならない事は一つ。
「速水健司は何処に居る」
「崩落したマンションに居るよ」
〝四肢狩人〟はあっさりと答えた。隠す気が無いところを見ると、やはり僕を誘っている様だ。
崩落したマンションというと、十二年前の事故現場だろう。成る程、あそこなら誰も立ち入らない。速水健司を匿うにも、僕を迎え撃つにも適しているという事か。
「充分だ。有り難う、君もすぐに捕まえてあげるよ」
「無理だね。ボクの能力を理解しているのなら、それは不可能だって解っている筈だ」
「不可能を語るなら終わってからにしなよ」
と、強がりを言ってみたものの――まぁ実際、何にも対策を思い付いていないんだけど。今すぐに殺されない事は判っているんだから、僕は与えられた時間内でどうにか対策を捻り出さなくちゃならない。
「そうだな、じゃあ君を捕まえられないであろう可哀想な僕に、一つだけ教えてくれないかな?」
「答えられるならば」
答えない事もあるという事か。まぁ駄目で元々、訊いて反応を見られるだけマシ。
「君の動機は何だ?」
「黙秘させてもらおうかな」
即答かこの野郎。
「そうだな、一つだけ言える事は――仮に君がボクを捕まえられても、ボクの目的は阻止出来ない」
目的、ね。あの一貫性は見られても法則性の無い様な犯行でも、目的はあったという事か。最終的な到達があった事には正直驚きだ。
「はっ――一応、意味はあったんだね、あの四肢狩りにも」
僕が自嘲気味に言うと、彼はそれ以上何も言わずに、苦笑して去っていった。
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