#5/Anesis‐長谷悠(五月二十一日~五月二十三日)
33
孤独はこの世で一番恐ろしい苦しみだ。
どんなに激しい恐怖も、皆が一緒なら耐えれるが、孤独は死に等しい。
――コンスタンティン・V・ゲオルギウ
五月二十一日
「――何で俺達がこんな事をやらされなきゃいけないんだよ」
深夜の街で、男が愚痴る様に言った。
寝静まった街には、昼間の人が居る独特の喧騒も無く、車も数える程しか通らない。たまに道沿いをライトが照らす程度で、歩道にはちらほらと人影が見える程度である。だがそこは、昼夜を問わず元々人など来ない路地裏である。
「表社会じゃ、ただの『Aさん』に過ぎない高校生相手によ」
男はまた愚痴る。男はフライトケースを持っていて、もう一人それと同じ物を持った眼鏡を掛けた男が居た。どうやら男は彼に愚痴っている様だ。
男は『Aさん』という名前を口にする時だけ、それが皮肉を込めた蔑称であるかの様に不愉快さで顔を歪める。だが、その名を口にする時だけ彼の声は自然、小さくなっていた。それが苛立ちと不満の底に隠れた畏怖だと彼は気付かない。
「〝四肢狩人〟じゃなければな、俺達も出張れたんだが。
眼鏡の男は相手の愚痴に慣れているのか、淡々と答えながらケースを置いて開いた。中には科学捜査のフィールドキットが入っており、警察の鑑識課や科学捜査研究所のものとは明らかに違う物で、何処か独自の機関の備品だ。
「面倒臭ぇ……。大体な、この国の警察は優秀じゃなかったのかよ、何で証拠や痕跡が残ってるんだ?」
文句を言いながらも、男は同じ様にケースを開き、ラテックスの手袋を嵌めた。道具を取り出し、着々と作業を進めていく。
周囲にUVライトの光を当て、不審な痕跡があれば綿棒で擦り取り、試薬でそれが何か確かめ、その場に少しでもそぐわないものがあれば、証拠袋に入れて回収する。しかし彼等が調べている微細証拠の基準は一般的な鑑識のものとは違い、どうでもよさそうなものばかりだ。持ち帰り、
「警察が初動捜査で見つけられなかった物を見つける様に俺達は言われてるだろう」
「それは知ってる。警察に押収されたら拙いものを回収ないしは消すんだろ? 面倒臭ぇんだよ、能力の痕跡一つ探すだけでどんだけ徹夜しなくちゃいけねぇんと思ってるんだ、糞っ垂れ。いっそ
そう男が投げ遣りに言うと、眼鏡の男が厳しい目で睨んだ。
「殺されるぞ」
「『Aさん』に消される、ってか? 馬鹿、お前。居ないから言ってるに決まってるだろ。それに俺が不満なのは『Aさん』がやっている、〝四肢狩人〟なんて危ない事に関わらなくちゃいけない、なんて事だよ。アイツとは違って、俺達は普通人だぜ?」
男が吐き捨てる様に言うと、眼鏡の男はそれに同意する様に嘆息した。
「それはまぁ確かに、〝四肢狩人〟は危険だからな――」
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