32
長谷達に俺の連絡先も教えて別れた後、報告の為に事務所に向かうと、またも黒木は居らず、捺夜がソファに座って茶を飲んでいた。「待ってればいいよ」と言う、捺夜の言葉に甘えて寛がせてもらっていると、捺夜がお茶を持ってきてくれた。
「有り難う捺夜。ところであいつ、また何してるんだ」
お茶を飲みながら捺夜に訊くと、
「現場に盗聴器仕掛けに行ったの」
「盗聴器? 何で現場に?」
「あたしも訊いたけど、可能性としては低い事だから気にしなくていいって。晨夜さんなりに考えはあるんだろうけど、だったらあたしに買いに行かせなくてもいいのに」
「低い可能性ねぇ……犯人は現場に再び現れる、とか?」
「あたしもそれは思ったけど、幾ら何でもそれは無いよ」
「っていうか、もう現場に入れるのか?」
よく考えたら、自殺事件が起きてからまだ三日しか経っていない。まだ立ち入り禁止のテープが張ってある筈だが。
「何かコネがあるから平気なんだって。きっと知り合いの刑事さんに任せるんじゃない?」
「知り合い、ね。ばれたら服務規程違反どころか懲戒免職になるんじゃないか?」
何せ、一般人に捜査情報を漏洩している事になるんだし。
「あたしはそんな事知らないよ。ただ奇怪な事件に関しては、向こうから晨夜さんに依頼するから、捜査協力って事にはなるんじゃないの? 公式か非公式かはともかく」
非公式にやるからいけないのではないだろうか。
「それより、ヌエの方は何か判ったの?」
「あぁ――」
「ただいま、彼方。ん? 何だ夜鳥、もう来ていたのか。明日でもよかったのに」
喋り始めようとしたら黒木が帰ってきて、俺の姿を確認して不思議そうにしていた。
「おかえり。時間があったしな、それにもう大体の事は調べられているから」
「おかえりなさい、晨夜さん。ちょうど、ヌエから話を聞くところだったんですよ」
黒木はコートを脱いで捺夜に渡すと、ソファに座った。
「そうか、じゃあ話してもらえるか」
「判った。先ず何が知りたい?」
「動機になる様な事はあったか?」
「充分に。速水はゲームセンターに居たらしいが、その時に絡まれて私刑された」
黒木はソファに寄り掛かった。
「成る程――充分だ」
「その絡んだ高校生が誰かは判ってるの? 死んだ高校生と一緒か判らないんじゃない?」
「目撃証言もちゃんとあるよ。リーダー格の名前も判ってるしな、確か芹沢正大だ」
俺が言うと捺夜は、セリザワ、と繰り返しに呟いてから、顔を顰めた。
「それ本当、ヌエ?」
「本当だ。芹沢のグループが絡んでいたって聞いた」
捺夜はますます顔を顰めて、うーん、と唸りながら首を傾げた。
「でも怪訝しいよ、芹沢なんて名前は死んだ三人の誰の名前でもないもん」
今度は俺と黒木が顔を顰めた。
「何? 待てよ。夜鳥、速水と一緒に居た奴等の人数は判っているのか?」
「いや、判っていない。だけど、三人の名前に無かったっていうのは――」
誰にも目撃されてなかった訳じゃない。俺が気が付かなかっただけだ。速水が三人を自殺に追い込んだと仮定した時点で、俺は自殺した奴等を三人一組にして考えていた。だから当然、芹沢も死んでいると思っていたが、そうじゃない。もしかしたら、速水が狙っている奴は――。
「四人目が居るな」
黒木は、片目を細めて呟いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます