27
「ヌエちゃんって、太らないの?」
「へ?」
ファミレスでの唐突な乙野さんの言葉に、思わず間抜けな声を出してしまった。
「だってさ、だって、タラコスパゲッティにペペロンチーノでしょ、それから鉄火丼の後に、今はヒレカツ定食だよ? 太らないの? っていうか何処にその量が入ってるの?」
「太りませんね。えー……何と言うか、そういう体質で」
ヒレカツを食べながら答えると、乙野さんはダメージを受けた様に仰け反って項垂れた。
「……ずるい。ずるいよヌエちゃんっ。そんな綺麗な髪の毛で、睫毛長いし顔とか小さいし、メチャクチャ細くて肌白くて可愛いし、それに加えて太り難い体質? 正直、それって何の冗談って感じよ。笑えない!!」
正直、こっちはそんな事を言われても困る。〝
やたらと熱の籠った口調だが、これが普通なのか、森枝さんは特に気にした様子も無くゆったりと食後のコーヒーを飲んでいる。長谷は長谷で困った様に微笑っていた。何も言えず俺は味噌汁を啜る。
「部長、ここには暁さんと話をしに来たんですよ。ぼくと副部長を置いてきぼりにしないで下さいよ」
「あ。でも、スタイルは……」
乙野さんはまるで聞いていない。どころか、俺の方を見て、何かを掴んだ様にしている。
「部長、無視しないで下さい。わざとですか」
長谷の言葉にも構わず、乙野さんは俺の方を見てくる。自分の胸を触りつつ、何だか希望を見出した様な顔だ。
「おっぱいはアタシの方がある?」
「……それについての言及は怒りますよ、乙野さん」
「別にいいじゃない、大体完璧なんだから。少しの欠点ぐらい衝かせてよ」
乙野さんは捨て鉢気味に言うと、にやりと笑った。
「うふふっ、アタシの目測だとヌエちゃんは、Aの」
「止めて下さい新手のセクハラですか?!」
ジャケットを着ているのに目測で正確に測られた気がする。何て洞察力だ。これが新聞部部長の実力……なのか? 何れにしろ無駄に危険だ。思わず物凄い勢いで胸元を隠してしまった。
森枝さんを見ると、表情が諦観の境地に達している。何処見てるんですか。この諦め具合からすると、乙野さんは一度熱が入ると止まらなくなる人の様だ。
「わざとですか、わざとなんですか、そうですか……」
呟く長谷の努力も空しい。
「……乙野さん、太り難い体質と言っても、俺は代謝が良過ぎるのか、その分お腹も空き易いんですよ。それに肌も白過ぎて少しコンプレックスなんですから」
「あぁ、それでジャケット着てるんだ。じゃあ制服のブラウスもいっつも長袖? 夏場はキツイでしょ?」
まぁ、それなりに、と答えるのと同時にウェイトレスが食器を片付けに来た。俺がついでにベイクドチーズケーキを注文すると、乙野さんが憤慨した様に立ち上がる。
「まだ食べるかっ!! どんだけ食べるのヌエちゃん?!」
「えっ、いやっ、だってここのチーズケーキ好きなんですよ。親会社の経営しているケーキ店から直接卸してあるから、味もチェーン店としては破格の質で、ランチの時間帯には女性客をターゲットにした小売りもしてますし。昼休みに来ればコンビニのお菓子よりも満足感があって……」
「何か妙に詳しい!?」
「いえ、俺も後輩に教えてもらったんですよ。よく誘われるんで」
「へー……アタシも今度から来よう。――じゃなくてっ!! そうじゃなくてね!?」
乙野さんはバンバンとテーブルを叩く。店員さんの視線が痛い。すると、その隣で今まで傍観していた森枝さんが溜め息を吐いた。
「……俺もデザート注文しようかな」
とコーヒーカップを置いて、バニラアイスを一つ、と注文した。
「何で森枝も便乗するの?!」
「別に俺がデザートを頼んじゃいけない事は無いだろう。長谷はどうする?」
「あ、じゃあぼくはティラミスを。部長はどうします?」
長谷に訊かれて、乙野さんは顔を顰めた。
「うっ……長谷君、最近アタシが体重気にしてるの知ってるのに。何でそこでアタシに訊くの? 嫌がらせ? 嫌がらせなんでしょ?」
「何の事ですか? 別に先刻無視された事なんて気にしてませんよ?」
「やっぱり嫌がらせじゃない!!」
「そんな事無いですよ。大丈夫ですって、デザート一品くらい少しなら平気ですよ。それにダイエットは、食事制限して悩んでストレス溜めると余計太りますし。それじゃいつまで経っても『脱・寸胴』は出来ませんよ? 副部長に括れが無いって言われたのを見返したいんでしょう?」
あはははは、と黒く爽やかに笑う長谷に、乙野さんは頭を抱え込む。
「うぅっ……駄目だ、駄目だアタシ。こうやって幾度と無く、長谷君の甘言に騙されたと思っているっ。それに最近、アタシの腰にもはっきりとした括れが……!」
「いつも皆、長谷の甘言には最終的に籠絡されるけどな。あとお前はまだ寸胴だ」
と森枝さん。最後の一言で乙野さんに殴られた。
どうやら森枝さんは懊悩する乙野さんを助ける気は更々無いらしい。本当に乙野さんは部長なのだろうか、部内で上に立つ人の扱いではない気がする。何か不憫だ。
「大丈夫ですよ、ストレスを溜めない適度な食事もダイエットです。本当にストレスで太りますよ? あとでカロリー計算をすればいいんですよ、帳尻が合えば結果は一緒ですよ」
「ううぅ……っ」
「さっ、何を注文しますか、部長?」
「……ご馳走様でした」
乙野さんは、チョコレートケーキを食べ終えてフォークを置いた。
「――って。しまった、食べちゃった!?」
はっとした様に言う乙野さん。突っ込み待ちか。
「はい、ご馳走様でした」
したり顔で言う長谷。実に満足そうだ。
「あぁぁ、またしてやられたっ。ご馳走様でしたじゃないよ長谷君! 非道い、非道過ぎるぞ君は!」
「自業自得です。ちょろいですね」
「非道い!?」
長谷に唆されたとはいえ、乙野さんは結局は自分からケーキを頼んでたんだから、何も言えない様な……。
その二人の遣り取りを見兼ねたのか、森枝さんが割り込んで言った。
「食事も終わったし、早く暁さんに話をしてあげるべきだろう。長谷、鈴風は無視していいぞ」
「判りました。じゃ、暁さん。始めてもいいかな?」
俺は、ぶつぶつ言っている乙野さんを尻目に、いいよ、と答えた。
「それじゃ、何を話せばいいのかな?」
「あぁ、一昨日の自殺した三人について訊きたいんだが……何か知ってるか?」
長谷は一瞬意外そうな顔をしたが、勿論、とすぐに答えた。
「あの事件については調べてるよ。それに、彼等のグループは……」
と、何かを言い掛けると長谷は、ちらりと森枝さんを窺う様に目配せした。
「……話しても、構いませんよね、副部長?」
「あぁ、別にいいだろう。そもそも隠すべき事でもない」
軽く頷き返しながら森枝さんは長谷に答えた。
森枝さんはそうでもないが、長谷は妙に不安げな様子だ。態度に出るか出ないかの違いなのだろうが……何か話し難い事でもあるのだろうか。
長谷は話を続けた。
「先ず、ぼくは彼等とはクラスメイトで、友人関係があるとは言えなかったかな。彼等、ぼくのクラスではどちらかというと、煙たがられてたから」
「素行が悪かったのか?」
「そう。簡単に言えば不良。いつも一緒に居るメンバーで授業をサボっては、繁華街の方に遊びに行ってたよ。この辺りって、高校は山瀬の一校しか無いでしょ? だから、彼等はよく一年生から金を巻き上げてたって話も聞いてる」
「それは問題にならなかったのか」
「ならないね。担任が気弱で、本人達にも保護者にも物言い出来なかったから。それに以前、停学した時があって――それは一年生が恫喝された事を先生に話したからだ、って事だったけど――その後復学してから、その一年生を陰湿に虐めてたって。報復だね、それで誰も関わりを持ちたくないから、表沙汰にはならない」
「成る程……」
典型的な御山の大将だったという事か。もしも俺がそれを知っていたら、問答無用で殴りに行ってただろう。それが無いという事は、飽くまで自分達の優位が保たれるテリトリーから、無駄に食み出す事はしなかったという事だ。
俺達も、と森枝さんが嘆息を混ぜて言った。
「その事を記事にしようとした事があったが、教師側に抑えられたよ。自分達が解決するから、生徒である君達が余計な事をして状況を悪化させるな、っていう神経質な大義名分でね」
森枝さんはその時の事を思い出しているのか、あの時は本当に腹が立った、と憎々しげに呟いた。
「勝手に刷る事は出来なかったんですか?」
「出来た。だけど、虐められてた一年生がね、自分に皺寄せがくるから止めてくれって。その一年生を俺達が守れる訳でもなかったから断念した」
チョコレートケーキから漸く立ち直ったのか、ふんっ、と乙野さんが吐き捨てる様に言った。
「アタシは諦めてないよ。絶対に記事にしてやる」
「でも部長、死んだ人達の事を論うのは……」
「確かに、宜しくないと思うよ。だけど長谷君、アタシはね、そんな事とは関係無しに赦せない悪事は露呈させてやりたい。アタシは自分が許す限りの手段は何でも使って、絶対に白日の下に曝す」
きっとした顔で乙野さんは続け、
「ペンが剣よりも強いのなら、思想も暴力より強くなる。言葉が人の心に訴える力が強いんじゃなくて、言葉が人の心に武力を呼び起こすだけなんだから、思想は何れ権力も暴力も覆す」
力強い口調で、そう言い切った。
部長としては随分と頼りない印象の人だったけど、思ったよりも数段意思が強い。あの洞察力に加えて、この確固としたジャーナリズムがあるから、新聞部ではこの人が部長に選ばれているのだろう。人を引っ張っていく力が、強い。
乙野さんは俺がじっと見ているのに気付いて、慌てた様に言った。
「あっ、ごめん。話戻していいよ」
「いえ、別にいいですよ。えっと、じゃあ長谷、そいつ等の中でリーダー格の名前は?」
長谷は少し顔を顰めて、リーダーかぁ、と呟いた。
「リーダーって言われると、
俺が知らないだけで、一年や長谷のクラスの間だけでの恐怖の対象、か。
事件の形は大体見えてきたが、それがどう速水に繋がるのかが判らないと、どうにもならない。速水が不良と遭遇するとしたら何処だ、殺す動機を得る様な場所だ。
「長谷、一週間ぐらい前の昼休みに奴等は校内に居たか?」
「え? 確か、一週間前は……二限目から居なかったと思うけど。って言うよりも、殆ど繁華街方面で遊び歩いてる筈だから」
だったら、校内には居なかった事になる。となると、あの日、速水が高校に来た時に芹沢達と遭遇する場所は――やはり繁華街しか無い。
「長谷、有り難う。知りたい事は判った」
今の話で、速水が三人を殺した理由は何と無く見えてきた。自分の中に沸々としたモノが自覚出来る……何て
「そう? 今ので役に立てたならよかったけど」
「いや、充分だったよ」
……そう、赦す気が失せる程に。
深く息を吐いて、どうにか激昂の檄を抑える様に自分に言い聞かせる。今はその時じゃない、と。そうして一息落ち着いたところで、乙野さんが何か言いたそうに俺を見ていた。
「あの、ヌエちゃん。話はもう終わりでいい?」
「え? あぁ、はい。有り難うございました」
「じゃあ、有馬君から聞いてると思うけど……、簡単なインタビューみたいな事を受けてもらってもいい?」
あ。忘れてた。
有馬の言っていた様に、俺がやらかした事について訊かれても、特に面白い答えは出来そうにないんだが……乙野さんの言う俺に対する興味は、何かの勘違いで変に期待をされていないだろうか。
「えぇ……まぁ、はい。別に構いませんよ」
「よかった。じゃあ長谷君、書き取りお願い出来る?」
その乙野さんの言葉に、森枝さんが虚を衝かれた様な顔をした。
「待て鈴風。何で長谷に頼む。お前が自分でやるんじゃないのか?」
「……別にいいじゃない。どうせアタシは速記出来ないんだから」
乙野さんは明ら様に面倒臭そうに、森枝さんから目を逸らす。
「よくない。そもそも今回は、上がり症の克服も兼ねてインタビューをしたいとお前が言ったから、俺と長谷は最初の緊張を
森枝さんが責め立てる様に捲し立てると、乙野さんは破れかぶれな感じで言った。
「あー!! もう別にいいじゃない、細かい事をうだうだ言わなくても! 言ったでしょ、どうせアタシは速記が出来ないの。だからインタビューを記録するのは誰かに頼まないといけないの!!」
「別に速記は絶対に必要な訳じゃないし、それは論点の摩り替えだ。今話しているのは、お前が主導的に他人に対する事が出来る様になる為の事だ。それに俺と長谷は二人ともそんな事をやるなんて思ってないんだから、道具を用意している訳が無いだろう!」
……見事に売り言葉に買い言葉だ。
これだけ見事に他人の前で内輪を見せられるなら、上がり症も糞も無い様な気がする。というか、ただの痴話喧嘩に見えてきた。
「え? ちょっと、何で持ってないのよ? いっつもメモ帳とペン持ってるじゃない?!」
「必要性がある時だけな」
指差して糾弾する様な乙野さんに、ふふんっ、と勝ち誇った様に答える森枝さん。
これは見えてきた、じゃない。完全に痴話喧嘩だ。上がり症云々よりもこっちの方が余っ程恥ずかしく見えるのは、俺の気のせいだろうか。それと取り敢えず、乙野さんは自分で道具を持って来るべきだと思う。
しかし、結局、道具が無いならインタビューはどうするつもりなんだろうか。森枝さんは手ぶらで、乙野さんも同様だ。新聞部員の中で荷物を持っているのは、ショルダーバッグを持っている長谷だけ。
と、そこで、長谷が二人の口論の間に入って言った。
「あ、筆記用具なら、ぼく持ってますよ」
「やった、流石長谷君! いつも準備がいい!!」
よくやった、と言わんばかりに、びしっ、と親指を立てて見せる乙野さん。だから、自分で用意をしておくべきだと突っ込みを入れたい。
いや……待て、と森枝さんが歯切れ悪く乙野さんに言う。
「道具があったところで根本的な問題の解決にはなってない。速記が出来るのは俺と長谷だけだ。つまり、俺達がやらないと言ってしまえば、結局お前は一人でインタビューしないといけない事になる!」
「いえ、別にぼくは構いませんけど?」
「何でそこで引き受けるんだお前は?!」
予想に反した長谷の言葉に声を立てる森枝さん。それに乙野さんがにやにやしながら、そんなの決まってるじゃない、と答えた。
「長谷君は新聞部の部長であるアタシに対して、精一杯応えてくれてるのよね。あぁ、可愛いくて有能な後輩を持ったアタシは幸せだわ!!」
「違いますよ。部長がこういう時あんまりにも役立たずなだけですよ」
「あれ、可愛くない?!」
……果たして俺は本当にインタビューを受けないといけないのだろうか。
ちゃんと訊いた方がいいのだろうが、出来るだけ自分からこの遣り取りに首を突っ込みたく無い。話を振られるまで傍観者に徹していた方が安全そうだ。
いや、まだ問題はある、と諦め悪く森枝さんは言う。
「速記と言ったって、俺達のそれは完璧じゃない。だから、あとで書き取った事をちゃんと確認するのにボイスレコーダーをいつも使っているだろう。流石に今それは部室に置いてきている筈だ」
「あ、それもありますよ」
ひょい、と鞄からボイスレコーダーを取り出す長谷。崩れる様に頭を抱える森枝さん。
「……長谷の鞄は色々入ってるな」
「大切なものや必要なものは全てこの鞄に入れて常時持ち歩いてますから」
面倒臭そうに言う森枝さんに対して、長谷は微笑う。
「それにいい加減、痴話喧嘩で暁さんを待たせるのもどうかと思いますよ?」
その長谷の言葉で、乙野さんと森枝さんがはっとする。やっと俺の事を思い出したらしい。というか、長谷はちゃんと気付いてたのか。もっと早く言えよ。
二人は申し訳無さそうに言う。
「……済まない暁さん」
「ごめんね、ヌエちゃん」
「いえ……俺は別にいいですが」
寧ろそれより、『痴話喧嘩』を否定しない事の方が気になる。
「じゃ、気を取り直して。長谷君、準備いい?」
いいですよ、と長谷は右手にシャーペンを持って頷く。乙野さんはボイスレコーダーのスイッチを入れて、それじゃお願いします、と言った。
「先ず思ったんだけど、ヌエちゃんは何で髪を染めないの?」
「髪、ですか?」
そう、髪の毛――と乙野さんは言った。
いきなり意外な質問だ。
「別に理由はありませんよ。あるとしたら、髪が痛むから、という事ですが」
「先刻も言ってたけど、個性として割り切ってるのよね? でも、目立つんじゃない? 今までにも、何か不都合な事とかあったと思うんだけど」
成る程、そこに繋げる訳か。
「ありませんよ。周囲が気にする様な事は、本人が気にしていると余計ですから。全く無かったという訳じゃないですけど、今は大した問題として受け止めていません。それに俺は、この容姿が原因で他の人を煩わせる様な状況は作りませんでしたから」
あぁ、自分で何とかしてたんだぁ――と乙野さんは関心した。
アルビノの身体的障害の事について言ったつもりだったのだが、どうやら乙野さんには伝わらなかったらしい。
調べなければ、見た目が特異なだけの遺伝子疾患だからな。正直言うと、こういう社会的な無知が、乙野さんの言う様な『不都合』を引き起こしているんだが……言ったってしょうが無いか。
「じゃ、次の質問。ヌエちゃんは何でそんなに気丈なの? 何か、過去の経験に起因する事とかある?」
「気丈って……。まぁ、あると言ったら――ありますね。俺は、十二年前の事故の被害者ですから」
俺の言葉に、新聞部は三者三様に瞠目した。
まぁ、流石に驚くか。
「……で、まぁ。俺はその時に死を体験しましたから。俺にとっては死は恐怖です、だけどそれはもう過ぎました。だったら、もうそれ以上に恐いモノは無い」
「十二年前って、あの崩落事故?」
「そうです――」
そこで『幸か不幸か』という言葉はぐっと飲み込んだ。
「――家族の中では、俺だけが巻き込まれたんです」
「それは……強くもなるわよねぇ……幼少期にそんな体験したら。よく
「なったと言えばなりましたけど。それに先刻も言った様に、俺にとっては死イコール恐怖ですから」
「もう何も恐くない?」
「そうですね。死は英語で『恐怖の王』とも表現する程ですし。最大の恐怖を味わったから、
俺が自嘲気味に言うと乙野さんは複雑な顔をして、むぅ、と唸った。
「矛盾した理由がヌエちゃんの根底にあるのね。だけど、だからそんなに強い。……結構、ハードな人生を送ってるのねー」
そうでもないです、と言うと乙野さんは意外そうな顔をした。
「そうなの? ふーん、そう感じてるんだぁ……面白い。それじゃ、次の質問」
乙野さんは指を組んで少し身を乗り出した。口調は変わらず、だが妙に丁寧にはっきりと言った。
「何であの三人の自殺について調べてるの?」
恐らく、これが一番の質問だったんだろう。俺についてと、事件について。両方一緒に聞き出せる質問だ。こういう訊き方が出来るって事は、何だかんだで新聞部はそれなりに経験が豊富らしい。この自然に狙った方向に誘導しようとする話し方、黒木に似てる。
「アルバイトですけど……。私情も挟んであるから、その事も答えた方がいいですか?」
「答えてもらえるなら、お願いしたいな」
だったら、どう説明しようか……。
少し考え込んでから、乙野さんに視線を戻した。
「エリザベス・キューブラー=ロスを知ってますか?」
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