22

 どうやら、簓木にとって楽しみだったのは、山縣警視の虐めだったらしい。


 被害者の死体が置かれているモルグ――この国じゃ霊安室だけど――から、まだ引き取られていない死体の検分をさせろ、と彼女は監査官として命じた。


 それに対して、山縣警視は当然ながら従わなくちゃいけない。場を整える為に嘘を吐いたり高慢な態度を取ったり、警察内での後の事を考えないでだ。警察本部の警視として振舞う姿は、実に堂々としている様に見えたけど、内心はおっかなびっくり。これは簓木の大好物だろう。

 先にやる事を伝えておけば、こんな事にならなくて済んだのに、他人の慌てふためく姿を見て大笑いしない様に耐えている彼女が、山縣警視を不憫に見せた。いや、まぁ、僕も普段こんな扱い受けてるけど。


 そして山縣警視の尽力(主に精神的なもの)のお陰で、何とかモルグに入る事は出来た。


 気分の問題か、明かりがあっても薄暗く感じる。死体を保存する為の一定に保たれた室温はやけに肌寒く、鼻に付く高校の理科室にも似た独特の臭いで、妙に気分を萎えさせられた。

 山縣警視は死体安置所に備え付けられている遺体用冷蔵庫の番号を見ながら、目的のものを探している。そして目当ての番号を見つけたのか、僕と簓木に言った。


「これが、三人目の被害者です」


 山縣警視は腕に力を込めて冷蔵庫の引き出しを開ける――中から出てきたのは、蒼白い顔をした少年。柔らかい石の様な瑞々しさの無い肉感は、傷が全く無いから、どちらかと言えばとても造形の細やかな塑像に見えた。


 馬鹿な話、死体というのは全部そうだろうけど、生気が無い。単純に血液が巡っていなかったり、内蔵が一つも動いていないから感じる印象だ。見た目は人間なのに、は人間じゃない――何故かそれは明証的に解る様になっている。


 きっと、生きている人間との微細な差異が違和感を与えるから、それが死体だと認識させているだけだ。だけど、そこに生命の律動が無い事は、明確に魂の不在を告げている。

 同じ肉の塊なのに、停止しただけで特別な感慨を得る。これは〝死〟とは別のモノで、かたちは人によって違うものなのに、器としての能記シニフイアンは同じだ――敢えて記号シーニユにして呼ぶなら、〝虚無〟だろう。


 それじゃ、と簓木は死体を前にして、物珍しさも見せずに言った。


「検死台に動かして頂戴。このままじゃ見難いわ」


 それに促されて、山縣警視が慌てて死体を冷蔵庫から取り出した。少年の動かない体躯を抱えて、台の上に横たえる。バランスの悪い全身は、見ると右足が外れた人形の様だ。


 それで、と僕は死体を眺めながら簓木に訊く。


「死体検案書を読んだのに、今更死体の何を見るつもりなの?」

「馬鹿ね、検案書を読んだから気になるんじゃない。この子の死体には、他の被害者と違うところがあったでしょ?」

「違うところ?」


 三人の被害者の検案はどれも似たり寄ったりだった様な気がするけど、何か特別な備考とかあったっけ……全然思い出せない。


 答えに至れない僕に代わって、山縣警視が言った。


「痣、ですね」


 そうよ、と簓木は十全な感じで頷く。


「右下腹部の二つの痣。今までの犯行とは違って、これは〝四肢狩人〟が残した証拠よ」

「あぁ……」


 言われてみれば確かに、資料にはそんな事が載っていた気がする。だけど、それは決定的な証拠というより寧ろ――


 山縣警視が進言する様に言った。


「し、しかし、科捜研でも分析させましたが、何によるものかは判明に至っていません」


 そう、ただの犯罪の痕跡に過ぎない。不特定多数の『街の住人』という容疑者から割り出すにしては、余りにも役立たないものだ。


「だから、それを考えるんじゃない」

「考えるって言ってもね……」


 少年の脇腹の辺りを覘いてみる。彼の身体に残っている現物の痣は、丸い何かを押し付けたという事しか判らない。一円玉よりも小さいが、しっかりとしたレリーフがあったのは窺える。だけど、それが模様なのか文字なのかという事までは判らない。


 僕の後ろで山縣警視が説明する。


「痣の詳しい分析結果ですが、ドーム状の何かを押し付けたものだそうです。押し付けられた物体には特徴的な模様があったそうですが、小さいのに加えて、服の上からのものだった為、残った痕の特定は不可能だった、と」


 それを聞いた簓木は、どうでもいいわ、と一蹴した。


「今は痣の正体は重要じゃないわ。発想を変えるのよ、何の痣かじゃなくて、どうやって付いたものかを考えるの」

「で、それをどうやるの?」


 んー、そうねぇ……、と簓木は唇に指を当て考える風にすると、にやりと僕に笑った。


「槻木君、死体になって」

「は?」


 何か、意味不明な事を言い出したぞ。


「寝転がって死体役をやって、って言ってるの。私の言ってる事解らないの? 頭大丈夫かしら?」

「いやいや、何で僕がモルグの床に寝そべらなくちゃいけないんだ」

「犯行の再現よ、ほら早く」


 嫌がる僕に簓木はつかつか歩いてきて、急かす様に小突いてくる――と思ったら、綺麗に足払いを掛けられていた。


「なっ!?」


 ぐるりと視界が天井を向き、身体の重心が一気に低くなる。倒れる刹那に辛うじて受身は取り、すぐに起き上がろうとしたけど、予想外な事に胸が何かで押さえ付けられた。もう何が起こってるのかよく解らず、首だけ起こして、その正体を見ると、


「話を聞いてなかったのかしら槻木君? 寝転がって、って言ったのに、起き上がっちゃ駄目じゃない」


 簓木の足だった。要は、彼女に胸を踏み付けられていた。


「な、何するんだ簓木っ。足を退かせ!」

「山縣警視、貴方が犯人役をやって。先ずは刃物を持っている事を想定して、槻木君の足を切るの。右側から足を切ってるから、恐らくは右利きよ、それも忘れないで」

「無視か!!」

「え、あ、はい? そ、それでは、し、失礼します?」


 山縣警視は自分でも何を遣らされているのか理解が追い付いてないからか、言葉尻が変になっていた。誰に対する疑問だ。そして簓木に言われるがままに、僕の右側に回りこんで屈み込む。それから僕の足に手を思い切り押し付けてきた。


「いった!? ちょ、痛いって山縣警視!」

「す、済みませんっ」

「力は弱めなくていいわ、思い切りやらなくちゃ再現にならないもの」

「痣になるじゃないか!」

「そうなるなら寧ろ歓迎ね。痛くて我慢出来ないなら、他の事を考えて意識を逸らしてれば?」

「そんな、他の事って言われてもね……」


 痛みの中、うろうろと視線を動かして、何か無いかを探してみる。そして真っ先に眼に入ったのは、簓木の足――と、見えそうなスカート。


「…………」


 僕って健康だなぁ……なんて、嬉しいやら悲しいやら――多分、空しいというのが一番あってる――悲喜こもごもで益体無い感情を抱いてしまう。すると、米入り瓢箪に手を突っ込んだ猿を見つけた様に笑っている簓木と眼が合った。


「あら、私のスカートの中だったら別に見てもいいわよ? その代わり変態の烙印を押すけど。あぁ、向こう一ヶ月はこのネタで弄れるわね。人の噂が本当に七十五日なのか、試すのも面白そうだわぁ」

「だよねぇ! バレてるよねぇ! 僕って不憫過ぎるなぁ! 色んな意味で痛いなぁ!」


 女子高生に転ばされて胸を踏まれ、いい大人に足を潰される。何だこの状況は。


「あの、監査官。私はいつまでこうしていれば……」

「そうね、足を切る際に凶器を上から押す様にして頂戴。……そう、そんな感じよ。服の上からでも痕が残るぐらい力を加えて――ちょうど左肘が脇腹にめり込む感じになる筈よ」

「いだだだっ! だから痛いって!」

「煩いわ、もう少し我慢しなさい」


 あっさりとした慈悲も無い言葉の後、僕は暫く虐められた。段々と下腹部付近の感覚が無くなってきて、気分が悪くなってきた気がする。

 あー、今の僕の顔って、物凄く面白い事になってるんだろうなぁ、ははっ。――なんて、自虐とも諦観とも付かない事を、遠い眼をしながら考えていたら、漸く簓木は「もういいわ」と止めさせた。


「ほら、槻木君立って」

「……ねぇ、僕もう、帰っていいかな……」

「まだよ、押さえ付けられた場所を見てみなさい」

「注文が多いな君は……うわっ、本当に痣になっちゃってる」


 服をたくし上げて見てみると、死体と同じぐらいの場所に似た様な痣が付いていた。ただ、僕に付いているものの方が数が多く、少し色は薄い。


 はて、と山縣警視は言う。


「その痣は一体何によるものでしょう? 私の手首辺りのものの様ですが……?」

「多分、ボタンよ。山縣警視、貴方の手首には何が付いてるかしら?」


 簓木に言われて山縣警視は、自分の手首に眼を遣る。スーツを着ている山縣警視の上着の袖には、ボタンが四つ付いていた。


「これは……!」


 間違いないわね、と驚く山縣警視とは裏腹に簓木は淡々としている。


「〝四肢狩人〟はジャケットの類を着ていた。さぁ、考えてみましょうか。被害者には痣が二つしか無かったわ、それはつまり、ボタンが二つだけのジャケットという事よ」


 生徒を問の解答に導く教師の様に簓木は言う、あと少しで答えが解るよ、とでも言う様に。彼女自身は既に解っているんだろう、始めからそこに着く様に誘導していたのだから。


「背広、ではないですね……三つか四つが主流です」

「しかも痣の形から、レリーフの入れられていたドーム状のボタン、か……これはシャンクボタンだね」


 ボタンの裏側にある突起に、糸を通して留めるタイプの金属製のボタンだ。装飾としてボタンの表面にはレリーフが入っていて――そう、例えば家紋とかシンボルマークとか……って、あれ?


「……おい、簓木。もしかして」

「あら気付いたかしら? その通りよ、犯人像にもぴったり当て嵌まるわ」

「だけどそんな馬鹿馬鹿しいっ。三人だぞ? 三人殺しているんだ、そんなの」

? いいえ、現実より荒唐無稽なものなんて、そうそう無いわ。自分の事解ってるかしら槻木君。世界で一番身も蓋も無い存在の媒介者ベクターの台詞とは思えないわね」

「…………」


 確かにぐうの音も出ない。そして矛盾も無い、無理もない。常識に囚われるなと言ったばかりの事件で、常識的な考え方を持ち込むなんて愚昧だろう。


 一方的に話をする僕と簓木に、山縣警視は一人得心出来ずそわそわしていた。


「あの、済みません……お二人とも解ったのですか、この痣の意味がっ?」

「そう息巻く程の事じゃないわ。槻木君の手首を見てみなさい」


 簓木が言い、それに合わす様に僕は袖を見せた。山縣警視は、ぶらぶらさせている僕の腕を食い入る様に見つめる。そして解り易い事に、それに気付いた瞬間、瞠目した。


「こ、こんな事が――そんな、まさかっ」


 しどろもどろに言葉に詰まる山縣警視を、簓木はくすりと笑う。


「山瀬高校はブレザーだけど、基本的に制服の袖には、のよ。つまりこれが示している事は」


 僕は思わず頭を押さえながら、簓木の言葉を続けた。


「〝四肢狩人〟は、『学生』なんだよ」


 ぽかん、と正に開いた口を塞げない人を、僕は初めて見た気がした。暫くそうして茫然としているかと思ったら、急に意識を取り戻した様に、山縣警視は言う。


「し、しかしっ、学生が犯人などという事を、これだけで断定するのは、牽強」

「付会、なんかじゃ無いわ。疑いを容れられるから『容疑者』なんでしょう? まぁ、一足飛びに話を進めるのは遣り過ぎだと思うから、事件の『関係者』って言ってもいいけど――」


 簓木は含みのある笑みを浮かべ、


「それなら、


 さらりと、凄い事を言った。


「え?」

「は?」

「二人とも馬鹿面ね」


 思わず間抜けた声を出した僕と山縣警視を見て、にたにたしながら簓木は言う。


 いや、いやいや。ちょっと待て、現場写真に写っていた? 何が――って、犯人の事だろうけど……全く思い出せない。今混乱しているからなのか、それとも単純に意識してなかったからなのかも判らない。そんな確定的な証拠になる様なものって、あったっけ?


 言っておくけど、と簓木は呆れた様に言った。


「現場に集まってる野次馬の写真よ、殺害現場の方じゃないから。大して重要視しないで適当に飛ばして見るから、そういう事になるのよ」

「で、ですが、私も捜査会議で飽きる程写真を見ましたが、そんなものは無かった気がします。捜査員もそんな事を報告してきていません!」

「そうだ、僕だってそんな印象に残る事も、ものも無かったぞっ?」


 大体、現場に集まっている野次馬なんて、余程毎回同じ顔が写ってない限り、気付ける訳が無い。犯人は必ず現場に戻ってくるなんて、それは放火犯みたいに、自分のした犯罪に高揚感を得ようとする輩じゃない限り有り得ない。しかもそれを否定したのは簓木だ、〝四肢狩人〟は独善的な妄想を抱いていると。


「貴方達って、本当に調査をしているっていう意識が無いのねー。信じる事は性善、疑う事は性悪よ。人殺しを探すぐらいなら疑いなさい」


 いいかしら、と簓木は人差し指を立てて僕達に言う。


「第一の犯行は朝だった事もあって、警察が検証している時には、山瀬高校近くの現場には高校生が溢れてたわ。そして現場をケータイで撮っている鹿もいっぱい居た」


 ……何でそこで僕を見る。


「第二の犯行の時には、好奇心で集る野次馬達が沢山。ただし、深夜近い都市側だったから殆どは大人だったわ。けれど、その中にも現場を撮影している『学生』が居た」


 そしてこの子の時は――簓木は死体に目配せする。


「下町側での犯行。これは夕方で、どちらかと言えば放課後ね。ここでも同じ様に現場を撮影している『学生』が居たのよ」


 どの犯行の時にも、現場を撮影していた学生が居たという事か。けれど、それは別段不思議な事じゃない、学生なんて探せば何処にでも居るものなんだから。特にこの街には学校がある、〝四肢狩人〟はその中に居るんだろうけど、それが現場に来ていた学生と直結する訳じゃない。


 僕は腑に落ちず簓木に訊く。


「どの現場にも学生が居たからって、それがどうしたのさ? 同じ学生がどの現場にでも居たって言うの?」


 それに山縣警視が答えた。


「いえ、それはありません。それならば捜査本部こちらで気が付けますから」

「うん、そうだ――だから僕と山縣警視は、現場写真に何の違和感も抱かなかった。ほら見ろ簓木、君が含みを持たせて変な事を言うから混乱するんだっ!」


 殴られた。グーで。


「痛いっ!? 何だ痛いぞ何だ君はっ?!」

「他人の話を最後まで聞かないで、鬼の首を取ったと勘違いしている貴方が、とっても。ちゃんと話は最後まで聞きなさい? 国会議員じゃないんだから」

「…………」


 確かに、ちょっとだけ彼女の事を馬鹿に出来るかも、って期待したけど……だからって、殴らなくてもいいじゃないか。


 話を続けるわよ、と簓木は何事も無かった様に喋り始めた。


「貴方達は現場写真の学生を、飽くまで『学生』という括りで見ていたから気が付かなかったんでしょうけど、ちゃんと個人に識別すれば簡単に判っていた筈よ。調って事に」

「グループ、ですか?」


 そうよ、と簓木はぴんと来ない様子の山縣警視に答える。


「第一の現場写真を見た時、ケータイのカメラを使ってる人は結構居たけど、中でも異様に浮いてるのが居たわ。確か、男子生徒が三人、女子生徒が二人で固まってた筈だけど、デジカメを使ってたのよ」

「デジカメとは……また随分準備がいいですね」

「そうね、備えあれば何とやらよ。まぁ、普通に考えるなら、普段からデジカメを持ち歩く様な活動をしているグループって事でしょうね」


 学内でデジカメを使うとしたら、部活動だろうか。それとも美術の資料探しか、技術の授業でのPC用のデータ集め……。何にしろ、犯行当日にデジカメを持っていた人間は少ないだろう。


「それで、そのグループの人間が、その後の第二、第三の現場では、のよ。ちょうど持ち合わせてなかったのか、この時はケータイを使っていたりするけど、怪しむには十分でしょう?」


 ケータイを使っていたという事は、カメラの準備が無かったのに撮影してたという事だ。それはつまり、可能ならばどんな方法でもいいから、事件について調べたいと思っているという事だろう。


「……それは確かに、怪しいね……怪しいけれど――〝四肢狩人〟は単独犯なんだろう?」


 なのに、グループで活動している人間を疑ってもしょうがない。最初から何にもならないと判っている事を調べても意味が無いだろう。


「それに簓木、僕にはまだ疑問点があるぞ。君は〝四肢狩人〟の犯行動機は、独善的な妄想だと言った筈だ。それなのに何で現場に戻ってくるんだ、しかも複数人でだっ」


 これはどう考えても矛盾だろう。〝四肢狩人〟は自分の犯行を調べている人間と一緒に行動して、それでどうするって言うんだ、そもそも、妄想で活動しているのに。


 槻木君――簓木はわざとらしく首を傾げて僕に言った。


「私、〝四肢狩人〟が単独犯なんて言った覚え、無いわよ?」

「…………。は?」

「だから、私は一言も〝四肢狩人〟が一人で行動してるなんて断定してないわ」

「いやいや、だって」

「私がしたのは、『四肢狩りを行った人物』のプロファイリングで、それが〝四肢狩人〟という犯行の全体像になる訳じゃないもの。だから、この犯行について調べているグループを『関係者』として挙げたのよ?」

「待てっ、妄想が犯行動機なんだろう? そう断言した時点で、単独犯だと言っている様なものじゃないか!」


 本当に馬鹿ねぇ、と簓木は嘆息する。


「妄想イコール個人の破綻と捉えるのは間違ってないけど、のよ、それこそ信仰カルトみたいな形で。だからもしも〝四肢狩人〟が伝染する妄想でも、何も驚く事じゃないわ」

「――――」


 呆れて物が言えないというか、言葉が出ないというか……そうだ、これが一番近い表現だろう、『付いて行けない』。もう僕は大人しく、簓木の指示に従うしか無さそうだ。考えるだけ無駄で、面倒臭い。


 僕と似た様な感じで絶句していた様子の山縣警視が口を開く。


「で……では監査官は、その学生達が犯行に関与していると考えているのですか?」

「それはまだ判らないわ。今のところ判っているのは『四肢狩り』の実行犯の事と、彼が媒介者ベクターだという事だけ。けれど、捜査の取っ掛かりにはなるでしょう?」


 簓木はとてもサディスティックな眼をして微笑いながら、言った。


「〝四肢狩人〟は『学生』――先ずはここから始めるのよ」

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