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確かに、これはベクターの可能性が高い――山縣警視が持ってきてくれた資料を読み始めてから、すぐにそう思った。
被害者には共通して防御創が無いから抵抗はしてないだろうし、四肢を切られてるのにも拘らず、被害者は犯行中に口を押さえられてもいないのに悲鳴を上げていない。それは周囲の誰も犯行に気付いていない事から判る。
被害者の体内からは薬品も検出されていないし、縛られていた痕跡も無い。これだと被害者は全員、腕を切り取られているのに気付いていない事になる。
それが、〝四肢狩人〟の
だけど、被害者を狙う動機が判らない。無差別殺人だとしても、一定の法則を持って殺す相手を選ぶ筈。本当に、ただ殺したいだけ、なんだろうか。
だとしたら四肢を持ち去る理由が解らない。四肢に対しての異常な執着があるのか、それとも憎んでいるのか。何れにしろ、四肢を持ち去る事には、犯人なりの理由がある筈だ。
それが〝四肢狩人〟というベクターにある
こうも異常性を前面に押し出されると、〝四肢狩人〟の正体は単一の事柄に執心する虚有と考えるべきだろうか。だとすれば、この付近で死んだ人間を洗い出せばいいんだろうけど、四肢に執心する様な
しかも、この付近で死亡した人間となると、十二年前の事故のせいで大量に居るから調べるのも面倒臭い。持ち去られた四肢と被害者に関連性を見出せればいいけど、恐らくは何も無いだろう。四肢を持ち去る事に理由があっても、選ぶ四肢は無差別なんだ。
簓木が言った。
「予想通りだったわね」
「うん、まぁ、ベクターを使わないでこんな事をやってのける方法は、少なくとも僕には思い付かない」
それでは――山縣警視は不安そうな顔で言う。
「や、やはりこれは、能力者の犯行なのでしょうか?」
そうでしょうね、と簓木は無味乾燥に答えた。
「ざっと被害者の資料にも目を通したけど、殺し方が大胆なだけの素人、ってとこかしら。三人も殺してるのに、全く腕が上がってないわ。腕を狩る事だけに集中してるから、逆に余計な証拠が残らない――それだけね。はっきり言って、あとは御座なりだもの」
「つまり、ベクターでごり押しか……」
厄介だな。これだけの事を平然とやってのける能力が相手となると、僕も被害者の様に簡単に殺されるかも知れない。〝
「つ、捕まえられるでしょうか?」
「貴方は心配しなくても平気よ、山縣警視。死ぬとしても槻木君だけだもの」
「おい、君にはオブラートってものは無いのか!?」
「これでも大分包んでるわよ? 本当は槻木君の受難を考えるだけでもう、ぞくぞくして楽し……あ、ごめんなさい、本音はぎりぎりで抑えたわ」
「丸々聞こえてるよ、何だそのシースルーな本音は!」
「私の心の透明性は行政並だと自負してるわ」
「何も見えないじゃないか!」
「情報公開制度を知らないの? 私はオープンに本音を取捨選択して教えるわよ!」
「何か余計な手順が入ってるぞ?!」
「実際そんなものよ」
「一番本音っぽくない本音が出ちゃった!?」
「あ、あの……?」
「あぁ、気にしないでいいわ。これは槻木君の病気みたいなものだから」
「君のせいだ君の!」
簓木は鷹揚に溜め息を吐くと、突っ込みは程々にね、と言った。
……あれ、何か朗らかに窘められた。先刻までのノリとは打って変わって、僕だけ浮いてるみたいになっちゃったんだけど――徒滑りした若手芸人か僕は……!
「それじゃ、私達がしなくちゃいけない事だけど」
物凄く居住まいが悪い気分になっている僕を余所に、簓木は話の流れを何事も無かった様に戻した。誰か僕をフォローしてくれ。場所が無くて恥ずかしい。
「先ずは〝四肢狩人〟の動機、乃至は標的となる可能性のある人間の特定ね」
「……あぁ、うん。〝四肢狩人〟が残しているものと言ったら、死体だけだからね」
この事件で判明している事――それは極端に少ない。
犯行現場に選ばれる場所は、この南川市内に今のところは限定されている。犯行方法は、刃物で生きた相手の四肢の何れかを狩って持ち去る事だけど、その目的は不明。どの犯行にも一切の目撃者は居ないし、証言者すら出てこない。捜査の足掛かりになってくれそうな証拠や、犯人に繋がっている物証も無い。素晴らしいどん詰まり状態だ。
その中で唯一調べられる事と言えば、被害者の事だけだろう。
「だから、被害者について洗い直すのよ」
「……読心術使うの、止めてくれないかな」
何の事かしら? と簓木は恍けた。
「自意識過剰気味な槻木君は放っておいて、もう一度資料を検討するわよ山縣警視」
「は、はい。解りましたっ」
そのまま微妙に酷い言い種で、二人は僕を無視して資料を捲り始めた。……居た堪れない疎外感を感じる。
今の状態が継続するのが嫌だったので、僕は何の気も無い様に振舞って、その作業に参加する事にした。
先ずは、第一の被害者。肩甲骨と上腕骨の間、左肩関節から先が持ち去られていて、左肩以外に目立った外傷は無かった。
無職の十九歳。一人暮らしで、アルバイトを複数掛け持っていたフリーター。大学に通っていたらしいけど、一年持たずに退学。その後はアルバイトでの生活。大学を辞めた理由は自分に合わなかった云々。多分、五月病の類だろう。
高校時代から素行は普通で友人も居て、大学を辞めた後も、度々友人に誘われて遊んでいた事があった。ただ友人達の話によれば、自主退学した後の事は特に決めていた訳じゃなく、将来に夢を持っていたという事も無かったらしい。
彼が何かに忘我しているところを誰も見た事は無く、無趣味で受身な人間だから、この先どうするつもりか周りは心配していた。だけど、生来の真面目さからアルバイトを一生懸命にこなすので、バイト先に就職するんじゃないかと思われていた。
まぁ、今時の自分探しに励む若者の一人だったんだろう。流れで大学に行ってはみたけど、しっくりこないで辞めるなんてのも珍しくは無い。
殺害現場は河川敷。資料に添付されている現場写真を見ると、ちょうど山瀬高校の裏手の川だ。ここは散歩コースとして人気のある場所だし、恐らく散歩中に殺されたんだろう。事実、普段から散歩をしている被害者の目撃証言もある。
そう言えば、当時は野次馬根性が大爆発して学生が皆見に行ってたな。僕も行ったけど。その証拠に、野次馬を撮った現場写真には山瀬高校の生徒がいっぱい居る。しかし、幾ら何でもケータイのカメラで現場を撮るのはどうなんだ、不謹慎過ぎないか。デジカメを使ってる生徒まで居るぞ――って、僕も撮ってるね。興味深そうに現場にケータイを向けてる僕の姿が思いっ切り写ってるよ……あとでデータ消そう。
第二の被害者は、OLの女性。膝蓋骨から下の右膝を持ち去られている。左足の膝にも細かい傷が付いているけど、それは右足を切り取る際に凶器の先端が当たって付いたものだと思われてる。
都市側のビル群にある企業の一つに勤めていた二十九歳の女性。既婚者で子供は居なくて、家事は夫が専業主夫でこなしていた。子供を作る気は無かったらしく、本人は定年まで働くと言っていた。
仕事の成績は優秀で、周囲からは鉄の女とも揶揄される様な人。仕事に厳しく、職場では業務に没頭していて近寄り難くもあったらしい。その為、職場で浮いている面もあったとか。
近所の人によると、夫との仲は特に目立った問題も無い普通の夫婦。ただ、夫の方は感情の起伏が少ないのか、妻の葬儀の際は動揺も無ければ悲しむ素振りも無く、茫然自失で他人事の様だったという。
殺害現場は都市側のビルの死角で、仕事帰りに殺されたらしい。ビジネスセンターの中で人通りが多い訳じゃないけど、行き帰りの道として使われていた場所だ。現場写真を見る限りは、コンクリートジャングルの抜け道の様な所だったんだろう。
夜だっていうのに、現場写真に写っている見物人は多い。会社帰りの人から近所の主婦や学生……今一つ現実味の無さそうな顔をしている。あぁ、だからバラエティ番組の感覚でカメラを構えられるのか。これは道徳じゃなくて、品性の問題だ。
第三の被害者。中学二年生の少年。寛骨と大腿骨の股関節、右腿から下を持ち去られている。下腹部右に十五ミリ程の小さな痣の様な痕が二つ付いていたけど、何によるものかは不明。
第六中学に通っていた十四歳。両親が別居中で、妹が母親の方に引き取られている。父親との二人暮らしで、父親は仕事で帰りが遅い事もしばしばあったけど、少年はそれを気にしている節は無くしっかりしていて、近所ではよく出来た子だと褒められていた。
成績は普通で友人関係にも問題無し。虐めにはあっていなくて、虐めてもいなかったとの話。同級生の話によると学校では『普通の奴』という印象で、家での家事が忙しく遊べる事が少なかった。けれど、家事一切を受け持っているという少年は、男女問わずに尊敬されていた様子。
担任の話によると、家庭の事情からか、やけにしっかりしていたらしい。歳不相応の落ち着きが具わっていて、たまに達観した様な面を出していたとか。
何て事の無い普通の少年だ。苦労が多い分、将来は立派になりそうだと安易な期待を抱ける典型だろう。この時期に家で働き詰めというのは些か寂しいものがあるけど、本人が気にしていなかったのなら、慣れてしまっているのかも知れない。
殺害現場は下町側の路地。スーパーで夕飯の材料を買った帰りに殺された様だ。駐輪場に向かう途中の道で、ともすれば寂れた雰囲気のある場所。自転車を止めに来る以外に人が訪れないというのも一因なんだろう。
現場写真を見ると、夕方の繁華街だけあって現場に集まっている人も多い。これだけの人が居ながら、有力な目撃証言が出てこないのも不思議だ。ひしめき合って何をしているつもりなんだろう。例によってケータイカメラを使っている人達は、周りには全く気を配ってない様だし。
「…………」
これで、今のところ被害者に関する情報は全部だけど――さっぱりだ。関係性も何も見出せない。特定のファクターなり共通点なりがある筈なんだけど……もしかして、ただの快楽殺人者なんじゃないだろうか?
違うわ――簓木は急に僕に言った。
「……何がさ?」
「〝四肢狩人〟は、死体の四肢を狩っているんじゃなくて、四肢を狩って殺しているの。飽くまで殺人に四肢を狩る事を必要としているのよ? それが殺人だけを目的にしている訳が無い、って言ってるの。解ったかしら?」
「四肢はただの戦利品だとは考えられない?」
「戦利品を手に入れる様なタイプじゃないもの。先刻も言ったけど、三人殺して、それで技術的に何も向上してないわ。だから四肢狩りは『儀式』に近いものと考えるべきね」
ぎ、儀式ですか、と山縣警視が上擦った声で言う。
「えぇそう、儀式。〝四肢狩人〟が虚有か
「し、しかし、一体な」
「何の為に、なんかは知らないわよ。私達には理解出来ない
楽しそうに言う簓木に、山縣警視は絶句した様に口を半開きにしていた。まぁ、無理もない。僕や簓木はさんざ
「だけど、さ。簓木、儀式とは言ったものだけど、狙う対象に当たりを付けられないじゃないか。普通こういう犯罪の動機は、本人しか自然に導けない
結局のところ、〝四肢狩人〟が虚有なら
だけど、今手元にあるモノからじゃ、〝四肢狩人〟に見当を付ける事が出来ない。
僕の疑問を嘲笑する様に、簡単な事よ、と簓木は言った。
「私達の
「だからっ、それをどうしようって訊いてるんだよ」
「あら、そういう事を言ってたの? 槻木君ってば意外と賢いのね、簓木サン吃驚だわー。理数系の赤点常連なのに」
「無駄にリアルな個人情報出すの止めてくれない!? 全部解っている癖に回りくどいな君は!」
しかも要領を得ない焦らしをする。もう彼女は〝四肢狩人〟の人物像を絞り込めているんだろうに、敢えて僕に無い知恵を絞り出させようとしている。それで、あとで自分の無能っぷりを見せ付けられた僕のへこみっぷりを堪能するんだ。あぁっ、思いっ切りへこんでやろうとも!
どんなに考えて事実を繋ぎ合せ様にも、全てがバラバラ――僕にはそうとしか思えない。
被害者に共通点は無いし、関係も無い。それに、犯行の間が広い。一番最初の人から不規則に期間が空いているから、連続殺人じゃなくて模倣犯の仕業じゃないかとも思いたくなる。だけど、殺害方法から考えても同じベクターでないと不可能だ。同一の能力は存在しないのだから。あぁもうっ、何を考えろって言うんだ。
「さ、簓木監査官、その、わ、私も出来れば説明を頂きたいのですが……」
話の展開に殆ど付いて来れてない感じの山縣警視は遠慮がちに言う。それを受けてやっと簓木は、仕方無いわねぇ、と無駄に大仰な感じで腰を上げ、話し始めた。
「先ずね、犯人は若いわ。大体、十代後半から二十代前半の男性で、性格は真面目よ。外見もそうだと言わんばかりの好男子でしょうね」
「――ちょ、ちょっと待って下さい監査官っ」
「あら何かしら?」
にやにやと簓木は山縣警視に言う。多分、彼が訊きたいのこうだろう、『何故そんな事が判るのですか?』だ。
「な、何故そんな事が判るのですか?」
予想通り。
まぁ、誰だっていきなりプロファイリングを噛まされたら、そう言いたくもなる。僕も初対面で言った。全く、本当に嫌らしいな彼女は。もう特殊技能というよりも、天性のものにしか思えない分析力が、何であんな性格の悪い人間に与えられてしまったんだろう。
「簡単よ。犯行時刻を見ればいいわ」
「……早朝と、夕方と、夜だね」
「えぇ、その通りよ槻木君。その三つの時間帯を自由に行動出来る社会人は少ないし、且つそれぞれの現場で不審者の目撃情報は無いから、犯行の前後には被害者と一緒に居ても怪しまれなくて、完全に周囲に溶け込めているわ。それでいて、大した時間を掛けずに人の四肢のどれかを刃物で切る体力と腕力がある人物像は?」
「わ、若い男性ですね!」
山縣警視は快哉を叫ぶ様に言う。けれどすぐに顔を曇らせて、簓木に訊いた。
「あ、いやしかし……何故、性格まで判るのですか?」
「それは先刻も言ったけど、手口が『腕を狩るだけ』というところよ。殺人を楽しんでいる様子を見せないで、何らかの信念に基づいて行動している――それが殺人を犯す原因になっている妄想でしょうね。未だにマスコミや警察に接触して、世間にメッセージを発信しようとはしていないから、愉快犯でも社会正義でもなくて、目的はきっと独善的な事。そしてそれを自分で判ってる。多分、これからもビジネスライクな殺人に励む筈よ」
それを聞いて僕は思わず、はっ、と鼻で笑ってしまった。
「成る程ね、確かに糞真面目な人間に聞こえるよ。じゃあ、次は僕から質問させてもらうけど――」
「え? 嫌よ」
「何でだよ!?」
「嫌がらせ!!」
「何を嬉々とした笑顔で言ってんの?! 僕真面目に仕事してるんだよ、何だそのプチ虐めは! 女子高生だからって何でも『プチ』を付けて可愛くすればいいと思ってるのか!?」
あー……、と簓木は苦虫を煎じ詰めて飲んだ様な顔をした。
「今一の返しね。うん、もういいわ。ほら、さっさと質問して」
「うっわー、そういうのって結構、傷付くなぁ……滑るより流される方がざっくり来るなぁ……」
「はいはい、面白い面白い。あははははは。だから早く質問して頂戴」
「…………」
やばい、ちょっと涙腺緩んだ。
「じゃ、じゃあ訊かせてもらうけど……〝四肢狩人〟の妄想――つまり目的って何だと思う?」
そうねぇ、と簓木は適当に伸びをした。
「殺人を始めたのは二月だから、その頃に何かあったんでしょうね。今まで殺人を犯す理由が無かったのに、それが彼を変質させて偏執を持たせた。でも、極めて個人的な事でしょうから、対話をしてみないと中身は判らないわね」
「大凡の推測ぐらいは無いの?」
「私に出来るのは洞察よ? どんなに優秀な精神科医だって、患者の話を聞かないと治療出来ないに決まってるじゃない」
「そっか……」
犯行の
僕が苦い思いで悶々としている隣で、山縣警視は言った。
「あの、簓木監査官。〝四肢狩人〟が目的を持っているのなら、被害者に共通点を見出す事が出来るのではないでしょうか?」
無理よ――簓木は即答した。
「〝四肢狩人〟の犯行動機は私達からすれば、彼の立場で見ると納得は出来るけど、絶対に理解が出来ないものなの。もしも、それを解する事が出来る人物が居たなら、その人も〝四肢狩人〟よ」
「でも、納得は出来るんだろう?」
考えてみればそうだ。同一犯だという事が判っているんだから、無差別殺人だろうが何だろうが関係は無い。一人の人間が犯している殺人だ、何か軸がある筈。原因がある故に結果が生じるんだから、行動には理由が伴う。
そう、それに犯行にスパンがあるのは、次のターゲットを探す期間だ。そうなると、被害者には絶対に共通点がある。彼我の思考に全くの隔絶がある訳じゃないんだから、論理的に辿り着けるモノだ。だから、読み取れない事は無い筈だ。
「それは本人に懇切丁寧に説明を受けるか、本心を吐露しているものがある場合よ。槻木君ってば、殺人鬼と昵懇の間柄になりたいの? それはちょっと引くわ……」
「誰もそんな事言ってない!」
「まぁ、槻木君の趣味なんでどうでもいいわ。女性のタイプも童顔好きなのは理解出来ないし」
「おい、何でそれを知ってるんだ!?」
「だって……貴方ロリコンにしか見えないもの」
「僕のストライクゾーンが凄く勝手に拡張された!? ちょっと待て、いいか簓木。僕は幼女趣味じゃなくて、保護欲をそそられる女の子が好きなんだ! ――って何を言ってるんだ僕は、自分で墓穴掘ってるよ……!」
「おめでとう、真性のペド型変態宣言ね」
「もう本当に退っ引きならないなぁ!」
さて、と簓木は一言で話を切り替え、僕から弁解の時間を奪いさった。そして山縣警視の方だけに向き直る。山縣警視も、もう慣れてしまったのか、それとも対応が思い付かないのか我関せずという態度になっていた。……僕、酷い扱い受け過ぎじゃないか?
「ペド君に、ああは言ったけど」
「ちょっと待て、それ僕の事か!? ペド君って僕の代名詞か!?」
「確かに被害者には〝四肢狩人〟の心情が表れているわ。ちょっと煩いわねペドのき君、黙ってて」
「クラスチェンジした?!」
駄目だ、駄目だ。もう止めよう、これ以上深入りすると、どんどんと僕の人格が損なわれていく。可も無く不可も無い受け答えに終始しないと、挙句に僕はただの人格障害者にされる。
「普通はこういう殺人の標的は、性別や年齢、容姿に境遇、そういったものに首尾一貫した共通点があるわ。けど、〝四肢狩人〟には竜頭蛇尾と言っていいぐらいにバラつきがあるの」
「それでは……一体どうすれば」
「精々、考えるしかないわね。頭の中で反芻し続けるのよ、被害者三人のイメージ像を」
言って、簓木は資料を机にばら撒いた。机の上に紙がばらけて広がり、三人の被害者の写真が僕に眼を向ける。
「…………」
僕はそれを手に取り、もう一度資料を読んでみる、簓木が言った事を慮って――すると、何かが引っ掛かった。
被害者の人物像が、何処か似通っている。こう、とはっきりと言葉に出来ないが、印象としてまるで空虚な人間性が浮き上がる。何か、これにしっくりくる言葉があった気がするけど、それがどうしても喉で閊えた様に出てこない。
くそっ……それが肝要じゃないか……。それさえ判れば、相手の行動を読めるのに。
簓木が後ろから僕の肩を突いた。
「槻木君、紙との睨めっこは、そろそろいいかしら?」
「ん? あぁ、ごめん。何?」
「もう資料で判る事は尽きたから、次に行くわよ」
そう言う彼女の表情は、やたらと上機嫌に見えた。この時点で碌でも無い事が待ち構えていると解ってしまう自分が嫌だ。感情を活殺自在に出来る彼女の事だから、隠してもいない喜色が気色悪い。
「……次って、何だい?」
彼女は一度微笑うと、お待ち兼ねのメインイベントが始まる様に言った。
「
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