終章。そして、幕間
最終話 よいのゆうやみ
時刻は、翌日へと移ろうとするころ。ノワは、ようやく返ってきたブランを見て目を丸くした。
「ええー!?しろちゃ……あ、いやいや。ブランがお酒飲むとか何年振り?何杯いったの?」
ブランがにーにと呼び慕う人物。彼女を抱えて運んでくれた彼の方は、酒の匂いはするものの、酔っている様子は微塵もない。
「小さなグラスに弱いやつを水割りにしたものを一杯だけだ。それも、飲んで5秒もしないうちに潰れたな」
つまらん、と吐き捨て、ブランをうつぶせに机にもたれさせた彼は、床の上や机、椅子の上など、ありとあらゆるところに散らばり、散らかった紙を優しい目で見る。
その全て。描かれている人物が、誰であるのか。どのような思いで、描かれたものなのか。どのような思いで、葬儀の当日ギリギリまで青い布に刺繍を重ね。自分のために用意した
「お砂糖も、思いやりも。塩も、厳しさも。確かに、大事だよ?でもさ」
ノワは、傍らで全てを見ながら、静かにその感想を述べる。
「多すぎたら、間違いなくそれは毒だって、ノワは思う。あの娘にとっても、ブランにとっても」
ブランの瞼が少し赤く見えるのは、酒のせいなのか、それとも彼女が人知れず涙を流したせいなのか。答えを知っていたって、ノワがそれを他人に言うことはない。
ただノワは、告げるだけだ。
自分の思ったことを。
酒臭い溜息を吐き、かつて人間を妻にしていた精霊は言う。
「不器用、の一言で済ませてやれ。そこまでは、アイツだって知っていたことだ。思いを告げられない恋の相手が、まさか自分だとまでは気づいていなかったようだがな」
ほら、と渡された日記帳を、ノワが読んでも良かったものかどうかなんてことは、彼女には関係がない。もし、悪かったというなら。ノワは知ってしまった秘密を、墓の中までもっていき、死後の裁判でどのような罪に問われても絶対に口を開かずにいようと心に誓う。
したためられた文字は、酷く残酷。
けれど、残酷ではあっても。これは唯一、ブランを救えるのかもしれないと、理屈もなくノワは思えた。
「では、俺はもう帰る」
「あ、ちょっと待って。ブランの作ったお菓子、持って帰ってください。食べきれないし、原因の一端はユウさんにもある!!」
渋い顔をする彼に、2キロほどクッキーを持たせ、見送って。
ふと振り向けば、机に顔をつけるブランの閉じた寮瞼からは、透明な雫が流れ出ている。
「起きたら、先に読んじゃったこと、謝らなきゃ」
そのすぐそばに日記帳を置き。積み重なった布や紙の中に紛れ込んだ布団を探し出し。
ノワは、それをブランの肩にかけた。
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