第14話 ホントノココロハ?
ウソツケ、と。
頭の中で、誰かが言った。
嘘。
うそ、か。
「そんなこと言って、わかってるんだろ、ホントは」
口について出た言葉は、声は。まるで自分のモノじゃないように、とてもとても澄んでいて。
こんな声で歌えたら、気持ちがいいだろうなって、思った。
「ねえ、にーに。どこまで知ってる?」
そして、僕は叫ぶ。
「女性からの告白なんて、彼女にとって迷惑なだけだとか言って、だったら友達のままでいいやなんて言って、本当は。フラれた後にどんな関係になってしまうのが怖くて、僕が傷つくのが怖かっただけってことは知ってる?そんな目で自分を見てた女がいるなんて彼女が知ったら、傷つくだろうなんて言いながら、本当は。そんな目で彼女を見ていた自分自身がどうしても許せないなんて言って、本当は。そんな目で僕が自分を見つめていたなんて彼女が知って蔑まれるのがいやだっただけっていうのは?そんなこと、試してみなくちゃわからない、ホントは告白すれば彼女は受け入れてくれるかもしれなくて、それでも試さない僕は賢明なんだなんて免罪符を求めてたことは?にーにたちがくっつくって聞いた時に、僕は彼女の幸せそうな姿を見ていれば幸せだなんて思って居ながら、スケッチブックに書きなぐったデザイン画の裏に乗ろう言葉を吐いていたことは?彼女が死ぬと聞いて、とても悲しんでまた書き始めたデザイン画の裏で。いや、
表情が、崩れる。
ああ、と僕は手で顔を覆う。細い華奢な指と手だけは、女性らしくて逆に腹が立つ。
「なんだって、自分のためでしかない僕が、彼女を欲した理由なんて。ねえ、わかる?」
ぐちゃぐちゃに表情が崩れているのは、手で触らなくたってわかる。
涙なんて、出てこない。どれほど表情が泣き顔に近づいても、僕の目から涙は出てこない。
そんな僕の目の前に、トン、と小さなグラスが置かれた。
「一人でいたくないと思ったときに、隣にいてほしい相手だったのなら。それが好きだということじゃないのか」
にーには、そう言って。自分のグラスを一気に空けた。
中身は酒だと、匂いでわかる。僕が酒に弱いのを、このグラスを僕の前に置いたにーには、知っているはずなのに。
「裏側で、どんなにお前が醜いと思うことをお前が思っていたとして。それがなんだ?」
いつもの力強さはない。けど、自身に満ちたにーにの声は、凛として僕の耳に届く。
「お前が
ああもう。本当に、悲しいのか腹が立っているのかわからないけれど。
本当に、何もかもお見通しだといった顔で、何杯目かわからないお代わりを頼んだにーには、新しいグラスを僕のそばに置いたグラスにカチンとつけた。
「それでも後ろめたいだの、そんな言葉でごまかしたくないだの言うなら、せめて今夜は一杯ぐらい付き合え。お前葬儀が終わる前にどこか行っただろう、語るモノは、一番お前がおおいだろうに」
フン、と。またにーには、水でも飲み干すように蒸留酒のグラスを空けてしまった。まったく、結構な量を飲んでいるはずなのに、酔う兆しは全くない。
好みから言っても、白ワインの水割りなんて代物は、僕の好みとはかけ離れている。てか、白ワインの水割りって何。ワインって、調理用かストレートで飲むもんじゃないの?
でもまあ、ほんの少しでも、酔う心地を味わうとしたら。このくらいがちょうどいいのかもしれない。
「…………愚痴に、今度は僕が付き合う番か」
「そういうことだ。まったくお前は昔から、自分ばっかりで」
一気にグラスの中身を飲み干した僕は、瞬く間すらなく、意識が白に落ちていく。いつものように、胃にアルコールが落ちるより早く、体から力も抜けて。もう、あとのことは分からない。
だからきっと、間際に聞こえた言葉だって、本当は誰かに許してほしい僕の聞いた、幻聴かなにかだったんだ。
きっと、そう。
「本当の自分のことに関しては、どこまでも不器用に後回しにしやがって」
バカなやつ、と。
にーにの声は、もっと難しくて優しい言葉で言った気がした。
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