第11話 甘い砂糖菓子
「ただいまー…………」
そうこうしているうちに、今日も近くの高校に通う依頼主の子供たちの護衛を兼ねて。幼い容姿を生かして、潜入調査と言う物を『上司』に言いつけられているノワが帰ってきた。
なんか、声色が暗いのは、
「お久しぶりです、ブラン伯母様」
「あー、
数年ぶりに顔を合わせる姪っ子に、顔を合わせたとたんに頭突きをされてしまった。ただ、された僕より、した
やっぱり、風でも吹けばすぐに消えてしまいそうな小さな声は変わらない。
「あ゛ー。
誰にも教えていない、自由の利く場所を誰かに知られたこと。それに、この娘も慣れてはいるとはいえ、いつ何が起きるかわからないこの場所に、この子をノワが連れてきたことが気に食わない。
「だって!ついてきちゃったんだもん!!あ、ノワもう、お仕事の方行くから!」
それだけ答えて、一陣の風に吹かれた勢いだけで、身にまとう服が変わったノワは、すぐに別の荷物を持ってまた出て行ってしまう。
魔女って、やっぱ便利だなあとか思いながら。持っていたスケッチブックで
「なぜ、本邸の方へ帰ってこないんですか」
ほぼ脅迫、としか思えないような半泣きの表情で、見上げる
この隠れ家、実は、広大すぎる実家の敷地内にある、離れの一つだ。つまり、僕は実家に帰っているのに家族に顔を合わせていない。
「………めんどい、はっきり言うと、あの頭の固いやつら」
声を出すのも結構苦しいけど、返事をしないことには話が進まなさそうなので、それなりに、可能な限り正直に返す。
くだらない後継者争いは面倒なので。さっさと僕は、
それに。別に、僕が好き勝手言われるのは慣れてるしどうでもいいんだけど。
僕が何か言われることで、優しくて甘い彼女らが傷つくのは我慢できない。
「じゃあ………あ」
何かを言おうとした
「これ。あのヒト、ですよね」
「…………うん、そう。あのこ」
彼女のことは、
小さいころ、
めくったスケッチブックのページを見つめて。
「そういえば。ブラン伯母様、多趣味でいらっしゃいましたね」
「多趣味、というか。どうせ、時間は無限に余ってるんだし、やりたいことやりたいように突き詰めた結果。だけど」
無限に近い時間は、確かに持っている。けど、今回ばかりは、時間は有限だ。もう僅かしかないのに、まだ、何も始まってすらいない。
全然、本当に、何も出来上がっていない。お菓子の山くらいだ、出来上がったのは。
死に装束、とは言っても、にーにも彼女も仏教徒ではないから、一般的な着物に限らなくてもいいと言われている。だから、本当に。多種多彩に及ぶ衣装デザインが、スケッチブックのページと言うページに描かれている。
「…なんだか、婚礼衣装を作っていたときのことを、思い出します」
「ああ…………たしかに、ね」
柔らかく笑う
苦笑する僕の気は知らずに、
「本来は、
「ああ、にーにと僕をくっつけることで、より力を得ようって、ヤな大人の策略。だから、それもあって親睦を示してウチの
結局、彼女とにーにの話が持ち上がる前に、主に僕とにーににその気がなかったことによって、破談になった話だけど。
「ああ、そうか。そうだ」
なにか。
「
最後の抵抗、悪あがきにもにた感情。そんなもの、なのかもしれない。これは。
けど、僕は。忘れていたふりをして、納得したフリをして、理屈やこじつけで固めてどこかへ追いやっていた感情を、また思い出す。それを、否定しない。
(ああ、僕は)
かつて、夏祭りの屋台で自覚して、今なお
「たしか、青、だったのですよね」
新しい、まっさらなページに書き込むのは、黒や白では終わらせない。
「深い深い、
ほら、とポケットから出したペンダントの
奇しくもそれは、彼女の名前の花と、同じ色。
「これをくれたとき、
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