第15話

 僕は深い眠りから覚めた。


「ここは……」


 目を開けると、そこに広がったのは見飽きた深海電車の車内の光景だった。


「お目覚めですか?」


 影だと思っていた黒い装束を着た道化が視界に現れた。


「あの少女はどうした?」


 僕は手にあるはずの温もりがないことに気づいた。


「逃げましたよ」


「逃げた?」


「この電車の正体を知って怖くなったのでしょう」


「…………」


「あなたは気づいたのですか? この電車の正体に」


 僕が沈黙を保ったままでいると、道化が問いかけた。


「あぁ、気づいた。いや、知っていたというべきか」


「ほう。では、この電車の正体は?」


「それは――」



「死の揺籠だ」



 僕は言葉を続けた。


「僕達、乗客は死人だ。海葬によって魂だけが海に沈められた。人ならざるものになった人は、魂が深海の生物に生まれ変わった」


 僕は上着を脱ぐ。



 そして、肋骨が海老に変わり、臓物が海綿とゴカイに成り果てた腹を見せた。



「人の魂はここで生まれ変わる。そうだろう、道化?」


「はい、あなたの言葉に偽りはありません」


 道化は頷いた。


「そして、それから逃れる方法はーー」



「自分の名前を見つけることだ」



 道化は僕が見つけた問いが正しいというように、深々と頷いた


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