第12話

 道化。そのように名乗った人は、泡から突然現れた。体を覆い隠す黒い装束。鼻に穴が空いただけの仮面で顔を覆い、背丈は低く、中性的な声と身体で、男性か女性かその区別も曖昧だ。


「道化……」


「そうです。道化です」


「あなたは一体どこから現れたのですか?」


 少女が問う。


「現れたも何も道化は常にあなた方のそばにいるものです」


「……つけていた、ということですか?」


「そのように解釈しても構いません」


 道化は淡々と告げた。


「お前は一体何者だ?」


 僕は強い調子で詰問する。


「道化でごさいます」


 道化は相変わらず淡々と答える。


「なぜ、僕たちをつけていた?」


「それが道化の役目ですので」


「そうか」


 どうやら話になりそうになかった。


「お前の目的は何だ?」


「目的ですか?」


「そうだ。つけていたことは、今は気にしないでおこう。しかし、現れたことに理由がないわけがないのだろう?」


 道化は僕たちのことをいつからかつけていたらしい。しかし、僕たちに姿を見せたということは何か目的があるのだろう。


「あぁ、それでしたら――」


 道化は目に追えない速度で黒装束を翻し、何かをした。


「見せたほうが早いでしょう」


 道化はいつの間にか、その手に少女の右手だった二枚貝を持っていた。


 そして、それをおもむろに口に近づけーー



 喰らった。



「人ならざるものを処理することが目的です」


 僕と少女は声も出せなかった。


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