第9話
僕らは来た道を引き返して、車掌を探す。その途中、少女と出会ってから初めてあった人ーーサンゴを残して消えた女性に出会った。
「えっ……」
変わり果てた姿の女性に。
「どうして……」
少女の手が、僕の手から零れ落ちた。
女性は頭以外が全てサンゴや、甲殻類や、海藻や、海綿類となっていた。体を構成するそれらは、複雑に絡み合い、甲殻類は息をするように蠢き、蜘蛛の複眼の様な無数の目が、青と黄色の瞳が何十、何百ものそれが、観察するように、
僕を、少女を、僕らを無機質に見つめる。
「あなたたちは……?」
残った頭、その口が言葉を発する。
「だ、大丈夫ですか?」
「大丈夫ではないわ。私はもうすぐ人ならぬものとなって死ぬ」
「そんな!」
少女は女性に駆け寄る。それを拒絶するように、女性の体を構成する甲殻類が少女に鋏を突き出した。
「ひっ!」
「答えを見つけて。あなたはまだこうはならないと思うから」
「待って!」
少女の叫びは、蟹の甲羅に変わりゆく女性の頭に虚しく吸い込まれた。
少女が呆然と立ち尽くす。
「人ならざるものになる。意味がわかったか?」
「はい……」
「僕らは、あのようになってはいけない」
「はい……」
「行こうか。僕らには希望がある」
僕は少女の手を強く握る。
「えぇ、行きましょう」
少女が女性から離れ、強く一歩を踏み出した。
人ならぬものとなった、女性は、それぞれの生きものが、それぞれの意志を持って、散り散りにどこかへ向かった。
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