第7話
僕たちはしばらく歩き続けた。道中は人にも、人ならぬものにも遭遇することはなく、繋がれた手からわずかに漏れ出す互いのぬくもりが、ランプのように僕らの行く手を照らしているようだった。
「あれは……」
僕は電車と電車の切れ目、車両と車両の間を通るとき、それに気がついた。
「どうしたのですか?」
「あれを――」
僕が指差した先を少女が見つめた。そこには、一枚の紙片があった。
「一体何でしょうか?」
「わからない。見てみよう」
僕は違う車両に移り変わってすぐにある、窓枠に挟まれた小さな紙片を取り、開いた。
「車掌を見つけろ……?」
紙片には小さく、丸い字でそう書かれていた。
「車掌様ですか。道中では一度見かけていません」
「僕もだ」
車掌。それは電車を動かすうえでの要だ。運転手とは違い直接電車の運転手に関わりこそしないが、乗客の切符に穴を開ける。車掌がいなければ、電車の経営は成り立たない。
「車掌様はどちらにいらっしゃるのでしょうか?」
「車掌というからには、電車の中を歩いているのでは?」
「どうしてですか?」
「それは、切符を確認するためだろう」
「乗客は切符を持っていないのではないのですか? 私たちは望んでこの電車に乗っているわけではないのですから」
「…………」
確かにそうだ。彼女の言うことも一理ある。だが、それなら――
「車掌はどこにいる?」
「わかりません。ただ、ここまで車掌様を見かけなかったのなら、先の車両にいるのでは?」
「そうだな。進もうか?」
「はい」
少女は明朗に頷き、再び前を向いた。僕はポケットに紙片を忍ばせた。
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