第6話

 深海電車に乗ってどれくらいの時が経ったのだろうか。僕は相変わらず少女と手を繋いでいて、あてなく電車の中を歩き続けていた。


「少し、休憩しようか?」


「はい」


 少女の返答を聞いて、僕は適当な座席に腰を下ろした。


 二人の間をしばらく沈黙が漂う。なんとも言えない気まずさをかき消すように窓の外を眺めてみるが、外は暗黒が広がるばかりで、時折どこからか出た泡が電車の進む方とは反対に流れていくだけだった。


「先ほどのサンゴですが」


 少女が唐突に口を開く。


「あの女性の方は人ならぬものに変わっていく途中にいたのですか?」


「おそらくそうだろう」


「助けることはできないのですか?」


「己で答えを見つける以外には」


「そうですか……」


 少女は落胆したように、その深海色の瞳を床に向ける。リボンがついた髪が波のように流れて落ち、それがこの深海では見ることの叶わない海面を僕に連想させた。


「では、答えはどのようにして見つけるのでしょう?」


「問いを探さなければ」


「問いとはどのようなものですか?」


「それがわかれば、答えを探すことに苦労はしないだろう」


「それもそうですの」


 少女がくすりと笑い。それに僕は意外感を覚えた。少女は微笑むことはあっても、笑うことはなかったからだ。


「問いはいつか見つかるのでしょうか?」


「わからない。ただーー」


 人でいたいなら見つけださなくては。


「休憩はもういいかい」


「はい」


「それでは行こうか」


 僕たちは立ち上がり、再び歩き出した。


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